<そして……>





穏やかな昼下がり。
昼食の片づけも終えたジョウイは、ソファに寝転んでしばらく読んでいなかった古書を引っ張りだしてきていた。
その隣に腰かけて、セノは窓の外に見える街並みを眺めている。
ただ緩やかに時間だけが過ぎていく。
こんなのは久し振りだった。

「……シグールさん、大丈夫かな」
ぽつりと呟いたセノに、ジョウイは流し読みしていた本から顔を上げた。
 


グレミオの訃報を聞いて葬列に参加した後、二人はそのまま自宅へ戻ってきていた。
シグールとは葬儀の時に少し言葉を交わしただけ。
ただいても邪魔になるだろうと辞去する際に、挨拶していこうと思ったのだが、姿を見つけられなかったのだ。

「普段通り、とはいかないだろうね」
グレミオはシグールが生まれた時から一緒にいて、おそらく彼を一番理解していた人だろう。
同様にシグールがグレミオを慕っているのは見ていてよく分かったから、葬儀の時の様子は気になった。
けれど自分達が何を言っても上っ面だけの言葉にしかならないし、テッドもいるから大丈夫だろうとは思ったのだが。

それでもやはり気になるのか、セノはそうだけどと目を伏せる。
その様子に小さく微笑んで、ジョウイは身を起こすと隣にあった体を腕の中に抱きこんだ。
「セノはあったかいね」
「ジョウイもあったかいよ?」
冬だから丁度いいよねと小さく首を傾げながら言うセノの額に軽いキスを落とした。

一度は離した腕の中の温もりに、自分がどれだけ恵まれていたか実感する。
いつか訪れる大切な人の死も、傍にいてくれるから堪えられると思う。

人の事を自分の事のように考えて、大切にできる彼が愛しい。
それ故に傷つきやすい心を守りたいと思う。

何度もキスを降らせると、セノはくすぐったそうに身を捩らせた。
その様子を見てジョウイが笑みを濃くして腰に回していた手を下にずらすと、予想していなかったのかセノの肩が大きく跳ねた。
「ちょっとジョウイ!」
「ん」
何、と悪びれた風もなく尋ねるジョウイを睨みつけるが、効いた様子はない。
「だってまだ昼間っ」
「たまにはいいでしょ?」
せめてもの抗議は一言で下げられる。
何か言おうと口を開くが、何を言っても変わらない気がして、セノは結局こくりと小さく頷いた。
顔を赤くしながら腕を首に回してくるセノにジョウイは嬉しそうな笑みを浮かべて、二人の唇が限りなく近づき。

ちりんちりんちりん

「あ、お客さんだ」
誰だろうとぱっと身を離して玄関へ駆けて行くセノに腕を伸ばすように、ジョウイはソファに突っ伏した。
せっかくいい所だったのに誰だよ邪魔するのは。
新聞の勧誘だったりしたら燃やしてやる、と不穏な事を考えていたジョウイの耳に、楽しそうな声が聞こえてきた。
あれ、と視線を上げると、シグールがすたすたと部屋に入ってくるところだった。
玄関の方からはまだセノの他に数人の声が聞こえてくるから、おそらくいつものメンバーが来たのだろう。

ソファに突っ伏したままのジョウイを奇異なものでも見るような目つきで見下ろし、シグールはにこりと笑って言う。
「喉渇いたから飲み物ちょーだい」
そしてジョウイをソファから追い出して我が物顔で座るシグールにジョウイは溜息を吐き、人数分のお茶を淹れに行く。

ポットと六人分のカップを取り出し、はたと気付く。
手伝いにきたセノも同じ事を思ったようで、二人は顔を見合わせると笑った。
「よかったね」
「そうだね」

嬉しそうにカップを持っていくセノから笑ってそれを受け取るシグールを見て、ジョウイは苦笑交じりに息を吐いた。
例え日頃とばっちりを喰らっていても、散々からかわれていても。
彼はああやって笑っていた方がいいと思ってしまうのだ。


 



 



***
二段オチは回避しました、感謝してねジョウイ。

ここまで書いたはいいですが、反応が非常に気になるところです
……
二人して趣味に走ったので多少(?)有耶無耶な部分もあるかと。

「葬式」「疎通」「そして・・・」は浅月が、「独白」「告白」「幻影」は永氷執筆作品。