<昔話>





クロスってルックがいなくなった時どこ行ってたの。
ルックがいなくなってから戻って来るまでの数年間、聞くに聞けなかった事を、この際だからとシグールは聞いてみた。
そういえば、とルックもたたみかける。
「あんただって行き先言わないで出かけたんだから、人のこと言えないじゃないか」
「出かけたまま数年戻ってこないわけじゃないからね」
即座に毒交じりに切り返されて、ルックはあっさりと撃沈した。

クロスは少し困ったように笑って、しばしの沈黙の後シグールの問いに答える。
「墓参り、かな?」
含まれた微妙なニュアンスに首を傾げるシグールとルック。
なんで疑問系。
テッドだけはそれで分かったらしく、
「あぁ、シグルドさんか」
なるほどね、と納得したように誰かの名前を口すると、クロスは笑って頷いた。
「海葬にしたからね、その辺りの海で適当に」

誰だろう、とシグールは首を傾げる。
2人が知っているという事は共に乗っていたという船にいた人なのだろうけど、今まで何度か聞いたことのある思い出話には出てこなかった名前だ。
墓参りに行くくらい親しかったのなら、出てきてもおかしくなかったと思うのだけど。

視線で誰、と訴えてくるシグールに苦笑して、話していいものかとテッドはクロスを窺い見た。
クロスは呑気に茶のお代わりを注いでいる。
構わない、という事だろうか。
……つか俺が話すのか。
どこまで話していいものかと思いつつ、まずい事があれば自分から話すだろうと判断してテッドは口を開いた。

「シグルドっていうのは俺とこいつが乗っていた船にいた奴だよ。で、クロスの元恋人」
言ってから、彼についての事を記憶の底から掘り起こしてみる。
今にして思えば凄かったのかもしれない。
ここまでアレな性格でなかったにしても、あのクロスを抑えられたのは、船の中でも彼と軍師だけだった。あとあの王女。

どうして他人に興味を持たないように努めていた当時のテッドが顔まで思い出せるのかといえば、クロスを抑えられる稀有な存在だったからという他にまた別の理由があるのだが、話すと長くなるので 止めておく事にした。
言い換えると思い出したくない記憶とも言う。

「クロスの元恋人……」
初めて聞いたとばかりにシグールがクロスを見る。
隣に座っているルックも同じだったらしいが、こちらは表情には現れていない。
むしろ無表情で隣にいるクロスを見ているのが怖い。
「どんな人だったの?」
「あー……色々な意味で大人だった……の、か?」
海賊らしくない雰囲気だったから結構乗っている女性陣にも人気があって。
戦闘能力も高かったので重宝されていたけれど、なんだかんだでクロスに甘く独占欲が強かった。
クロスもそれを分かっていてテッドやハーヴェイに絡むものだから、その後テッド達がどうなったかは推して知るべし。
軍師も他に被害がないからと黙認していたし。
それがシグルドを覚えているもうひとつの理由だ。
ひっついてくるクロスを剥がそうとしていると、背後から殺気がびしばしと飛んできたものだった。

何が言いたいって、結局2人はバカップルだったって話。



「テッドからはそう見えてたんだねぇ」
げんなりと肩を落とすテッドに、クロスは楽しそうに笑う。
それが面白くないのがルックが物好き、と横槍を入れた。
「……るっくん妬いてるの?」
「誰が……ってるっくん言うな!!」
からかうように言うクロスにルックが叫ぶが、その耳元が僅かに赤い。
図星を突かれたのだと見ている方にはすぐに分かって、思わず笑いが漏れた。
「笑うな」
ぎろりと睨まれてテッドとシグールは目線を逸らすが、顔は笑ったままだ。

ここで切り裂きが飛んできそうなものだが、飛んでこないのはひとえにここがマクド−ル家の居間で、切り裂きをかまして部屋を壊すとグレミオの怒りを買うから。
この家の食卓事情はグレミオが握っている。
主夫グレミオ、やはり最強。


いまだだルックで遊んでいるクロスを見て、ふとテッドはある事柄が思い浮かんだ。
今の性格って、シグルドの性格が反映されてるんじゃないだろうな。
かつてより磨きがかかっていたクロスの性格。
その原因を想像して、テッドは深く考えまいと打ち消した。

 

 

 



***
なんとなく四人。
ジョウイとセノは自宅です。