<星辰剣の憂鬱>





一言断ってリーヤはアレストの剣を手に取る――が。
「お、重!」
「ああ、ちょいとな」
「こ、これをお前は片手で持ち上げるのかよ……?」
しかも振り回す。
たいした膂力だ。

はははと笑ってアレストはリーヤの背中をばしばし叩く。
「リーヤはもっと筋肉をつけねーとな」
「これ以上つかねーと思うけど……」
こきこきと手首を回しつつ呟いたリーヤは、刀の柄を掴む。
「……なあ、アレスト」
「ん?」

しばらく前にとある町で知り合った二人は、同じ傭兵業という事で国の横断を共にしていた。
互いに素性についてはほとんどやり取りがない。
だから、この事は無論聞いた事なかったのだが。
「お前、ご先祖様に傭兵業やってた人いたりした?」
「ん? ああ、立派な剣だろ? 俺のじーさんのそのまたじーさんのまたじーさんが使ってた剣らしい」
「……ああ、うん、立派な剣だな」
「じゃ俺風呂入ってくるからよ、荷物頼んだぜ」
「おう」
アレストが一風呂浴びに外へ出ると、リーヤは両手でその剣を持ち上げる。
ずしりと重いその剣の、刃と柄の間にいかめしい顔が刻み込まれている。
その剣、というか顔を見ながら、リーヤは呟いた。

「なあ、お前さぁ、豪快な熊がタイプなのか?」
リーヤの手の中にある剣は、静かに佇んでいる。
「なあ、星辰剣。お前絶対使う人間選ぶだろ。しかも結構きわどい条件で」
『……何がきわどいか』
「ほら、やっぱ本物だ。うわー感激だぜ、アレ以外に会えるとは」
『……お前』
「何?」
『クロスやテッドやセノと知り合いか』
「うん」
『……レックナートと』
「うん」
『……いかなる』
「セノは、俺の育て親の友人。レックナートはつまりそれでいくと育て親の母になるの、か?」
自分で言って自分で首を傾げるリーヤに、星辰剣は青ざめた。

レックナートが育て親の母。
ってーことはつまりっつーことはつまり。
レックナートを母親呼ばわりできそうな人物は一人しか心当たりがない。
ついでにその人物は星辰剣の知るセノやクロスやテッドとは確かに縁もゆかりもある。

『では、ではもしや……し、ぐーるとは』
「知り合い」
『……悪夢』
そう呟いたきり黙ったままの星辰剣に、リーヤはなんとなく同情してあげた。
そういえば彼も星辰剣の事をよく知っていたから、トラン解放時にもいたのだろう。
……うわあ。

しばしの後、おそるおそるにふさわしい声でもう一度剣が問いかける。

『お前、育て親は』
「クロスとルック」
『……やはり……』

沈痛な声で呟いて、それきり剣は黙した。

 





***
可哀相星辰剣。
アレストには口が裂けても言えません、二人とも。