<家族>





部屋を開けたラウロは凍る。

ここは魔術師の塔と呼ばれる胡散臭さMAXの場所であり、現在長期休みのラウロはリーヤに連れられて、滞在中。
……で、ここは彼に割り当てられた部屋。

の、はずだったんだが。

「あ、ラウロ」
「あ、じゃない。何してるんだ」
呆れ半分咎め半分のツッコミを入れられたリーヤは、頭から被っている布を剥ぎ取って、えーっとねと手に持っているそれを掲げて見せた。
「この色すきー?」
「そんな話はしていない」
「クロスー、ラウロ嫌いだって」
布を持ったままのリーヤが振り返った先にいたクロスは、そんなわけないよと笑って返す。
「だってそれはリーヤの目の色だもん」
「なんでー?」
緑に青を混ぜたような色合いの薄布をひらひら振りながら問うリーヤに、楽しそうにクロスは答える。
「好きな人の色は好きになるんだよ♪」
「うん、俺も銀とか青とか好きー」
「ちょっと待てそこ」

似非親子の会話にさすがに黙っていられなくて突っ込んだラウロは、違うだろう? と若干声を荒げた。
「僕が聞いてるのは、なんだってここが布だの風船だので埋まってるかということで」
「だってラウロ、もーすぐ誕生日じゃん?」
あっさりと言われたが、ラウロは眉を寄せる。
「……僕の誕生日は十日も先だ」
「だってそれまでに休み終わって学園に戻るし!」

俺の誕生日もここで祝ってねーし、だから一緒に祝う! と意味不明の理屈を言われてラウロは混乱する頭を押さえてもう一度整理した。
というかリーヤの誕生日はここに戻ってきて早々に祝ってるんですけども?

「細かいことは気にしないでよ、皆で楽しめばそれでいいじゃない」
「……大雑把だな」
「うん。アバウトだよー。でも、ね」
布で部屋の片面を飾り終えたクロスは、脚立から跳び下りると嬉しそうに笑う。
「お祝い事は多い方が楽しいじゃない?」
だからたくさん祝うんだよね、と言われてラウロはなんとも返せなかった。










夕食後にやっと入れてもらえた部屋は、すごい事になっていた。
床から天井まで青緑と白の薄布でコーティングされ、ポイントに白バラだの銀細工だのが上品に飾り付けてある。
赤々と燃える暖炉も、模造なのか本物なのか、つたが絡ませてある。
いったい誰のセンスなんだろうって、あの人しかいないわけだが。
そして、普通のベッドのはずだった場所は。

天蓋がついていた。

「……これは、どういう類の意味があるんだ?]
茫然と呟いたラウロに、後ろからついてきたリーヤが目を輝かせて言う。
「すっげーだろ! 明日になると取っちまうけど」
「いや、部屋をこうまで飾り立てる必要が見えないんだが……」
「え、だって誕生日って部屋を飾るんじゃねーの?」
すう、とラウロは息を吸い込んだ。
彼と出会って一年半。

「そんなわけあるか!」

何回目だ、この科白。
「なんでそんなことになったんだ」
「だって、クロスがルックの誕生日ん時に部屋飾っててー」
白と銀の布で綺麗に飾り付けて。
ベッドに天蓋まで持ってきて。
綺麗な花を生けて、蝋燭を立てて。
とてもとても綺麗で、ステキだと思った。

手間がかかる事を、忙しい誕生日当日にしているクロスを見て。
「俺にもしてほしいって言ったらしてくれたー」
自分にもしてくれるかと言って。
快諾してくれたのが嬉しくて。
「色、ヤだった? ラウロの好きな色よくわかんなくて」
不安そうに瞳を揺らしたリーヤに、ラウロは嘆息した。

なるほど、事の次第は飲み込めた。
クロスは――まあ、そういう目的のために飾っていたのだろうが、リーヤの中では「誕生日に手間をかけて飾り付けてもらう」ことが一つの目標にもなっていたのだろう。
それでわざわざ朝からラウロの部屋を飾り付けていたわけだ。
「ラウロ、気に入った?」
ひょこりと後ろから顔を出したクロスを振り返ると、さらに後ろにはルックの姿もある。
「ほら見てるっくん、いい出来でしょ♪」
「そうだね。色選んだのはクロス?」

うん、と頷いたクロスにルックはやっぱりと返して勝手に部屋に足を踏み入れる。
――まあ、彼の家なので文句は言えないのだが。
「ほら、やるよ」
入ってきな、と手招きされてリーヤが飛び出すとばすっとラウロのベッドの上に乗る。
靴のままでと顔をしかめるルックにブーツを引っ張られながら、ベッド裏から何かを引っ張り出す。
「クロスもー!」
「はいはい」
笑ってラウロの横をすり抜けたクロスは、リーヤが引っ張り出したものの一つを手に取った。
それから向き直ってこいこいとラウロを誘う。

「プレゼント用意したんだよ、喜んでくれるといいな」
「早くしな、冷えるだろ」
「ラウロ、こっちこっちー!」

戸口に突っ立っていたラウロは、数度瞬きをする。


――並んでいる三人が。
まるで一枚の絵のように見えて。


(……ああ、お前は)
いまベッドに座って楽しそうに笑っている友人は。
(本当に、彼らと家族なんだな)


「ラウロー、早くきてきてっ、一番に俺の開けて!」
大きな包みを持ち上げて叫ぶリーヤに、煩いぞと返すとラウロは後ろ手に扉を閉めた。

 





***
よく分からない作品になってしまいました。
靴のままベッドにのってはいけないと、この後リーヤはルックに怒られるのだと思います。