<修行>
「ストレート」
「フルハウス」
「また負けたーっ!」
くっそーとテーブルを叩いたリーヤに、にこにこ笑いながらクロスはカードを集める。
「ダメダメ、相手がどんな札を持ってるか確認してからじゃないと」
「うう……だって三枚捨ててんの見てフルハウスがくるなんて思うかよ!」
納得いかねーっと叫んだリーヤの頭をぽんぽんと撫でて、クロスは彼の前に積み上げた札の束を置く。
「三枚とるよ、見ててね」
すっすっすっ
手際よく三枚のカードを取ったクロスはその場で手を開きカードを落とす。
ひらひらひらひら。
四枚落ちた。
「あっ、うそっ、ここかよ!」
「ふふふ、最初に配った時は公平だったんだよ」
イカサマはその後、と笑ってクロスはカードを整える。
「まあ、最初にきった時に僕に都合の良いようにカードを並べてたけどね」
「………………」
カードの束を手にしてきりながら、リーヤは納得いかないといわんばかりの顔で何度も同じ事を繰り返している。
「っかしーな、カードの配置はできんだよー……一応」
「またイカサマ修行? よくやるね」
部屋に入ってきたルックが呆れて呟き、クロスが笑った。
「この間シグールが来た時にテッドとつるんでコテンパテンにやられたんだって」
「ああ、そういえば何か言ってたな。子供の小遣い巻き上げて何が楽しいんだか」
「ひでーんだよシグール、一ポッチも残さずぶんどってったんだぜ!?」
よほど悔しかったのだろう、リーヤの目に闘志の光が宿っている。
……たぶん、ここらまでシグールの計算通りなんだろうが。
「でも、シグールのイカサマは見破れなかったでしょ」
「う」
「あれは博打で食べていけるからね。イカサマなしでも強いよ」
昔イカサマ三昧な散々ポーカーをやったのに(主にジョウイが)懲りて、六人でする時はイカサマなしという徹底ルール(破った人はソウルか罰か黒き刃がエスコート)を作った。
そうなるとカード運もかなり重要になってくる。
おかげさまでゲーム自体にも強ければ運もあるシグールは常勝状態になったのだ。
「案外イカサマしてなかったんじゃないの?」
「んなわけねーよ! 十連続ロイヤルストレートフラッシュだぞ!?」
「……ああ、それは……」
どう見てもイカサマだ。
それもかなり無茶な。
……七歳児に容赦ないってどうだシグール=マクドール。
それに一枚かんだテッドもテッドだが。
さて、とクロスはリーヤの頭を撫でる。
「今度はリーヤが配ってごらん」
「……ん」
しゃっしゃと無心にカードをきるリーヤを見ながら、ルックがクロスの隣に座る。
やたら集中しているようだが、現在カードの並び替えを行っているのだろう。
「僕としては七歳でカードをきりながら、思うように並び替えるリーヤもどうかと」
ぼそっと横で呟かれたルックの言葉に、クロスはそうだねえと笑った。
「ほら、こないだ一ヵ月でちんちろりん完璧にしちゃったからね、シグールが喜んじゃって」
「詐欺技術全部教え込むつもりなわけ?」
「じゃないかなあ」
あはは、と笑いながらクロスはカードをきるリーヤの手に自分の手を重ねた。
「リーヤ、きりすぎ。怪しまれるよ?」
「あ……うん」
こくっと頷いてリーヤはルックの方を見る。
「ルックもする?」
「見てるだけでいい」
分かった、と頷いてリーヤはクロスの前に札を置いた。
「はい、オープン。僕ストレートフラッシュ」
「俺はフルハウス」
「………っ」
どうした? とテッドに声をかけられる。
札をあけないリーヤに、シグールが早くと急かした。
「リーヤ?」
「うっしゃあ! ストレートフラッシュだけどシグールより上!」
パン、と軽い音と共にリーヤは五枚のカードをテーブルに叩きつける。
12、11、10、9、8と並んだそれは、確かにストレートフラッシュだった。
「あっちゃー、まーけた」
11、10、9、8、7のストレートフラッシュを決めていたシグールが肩を竦める。
「ずいぶん上達したねー、まだ二ヶ月なのに」
「俺が勝ったからな! 賭け金!」
「上等! 僕はハンデで二倍の約束だったしね」
はい、とシグールが渡した硬貨は、二ヶ月前に持っていかれた小遣いの二倍分だった。
「やったーっ、クロスクロスっ、俺勝った勝ったー!」
嬉しそうに頬を赤くして部屋を飛び出して行ったリーヤを見送って、テッドがふうと息を吐いてカードをそろえる。
「ちんちろりんの時といい、カードといい……七歳だぞまだ」
末恐ろしいガキだなおいと呟いて、テッドは隣でなにやら思案しているシグールの頭をぺこんと叩いた。
「今度は何の悪巧みだ」
「え、そろそろいいかなーって」
「何が」
「麻雀」
「……まぁたイカサマかよ」
「麻雀はジョウイが強いんだよねー、今度引っ張ってこよう」
そいでリーヤをぼこぼこにしてもらわないと♪ と楽しそうに言ったシグールを横目で見て、テッドは呟いた。
「お前……好きで苛めてるだろう?」
顔を上げたシグールは、やだなぁテッド苛めてなんかいないよぉ☆ と返したのだけど。