<ハイイースト宣言>
精が出るな。
感心半分呆れ半分にそう言ったジョウイを振り返って、一番暇そうなクロスが笑った。
「どうしたのこんなところまで」
「いや、ちょっと暇ができたから夕食でもって」
思ったんだけど、無理かなこれは。
床に散らばった本に埋もれるようにして、朝っぱらからずっと同じ作業をしている二人を見下ろし苦笑する。
ここはデュナン王国の書庫。
主に過去の歴史を書き綴ったものを置いてある場所で、機密度は最低ランク。
つまり一般人でも手続きを踏めば立ち入りできる。
ここ暫く書庫整理をする者がいなかったので、盛大に散らかっていたそこの処置を、休暇を利用して城に押しかけていた友人とその養い子とその友人に押し付けたのだが。
「もう片方はルックが?」
「うん」
頷いてクロスは手元の本を取り上げぱらぱらとめくる。
「僕も読書は嫌いじゃないけど、これだけあると読んでると頭痛がするねー」
笑ったクロスは午前中リタイヤだ。
もう一つの魔術関連の書物の方はルックが一人でやっているらしい。
半分趣味だから別にいいだろうというのはジョウイの独断だが。
「リーヤ、ラウロ、夕食にしようか」
本に半ば埋もれている子供二人に声をかけると、ぴょこっと二つの顔がジョウイの方を向いた。
「腹へったー」
「昼食べてないからな」
「……食べてないのか」
やれやれ、と溜息を吐いてジョウイは三人を連れてルックのいるはずの部屋へと向かった。
夕食の席にはセノ、ジョウイを始めにシグール、テッド、クロス、ルックにリーヤとラウロが座る。
見かけ全員十代前半から後半だが、実年齢は実に五百歳から見たまんまと幅広い。
「なあなあー、今日整理した区画さ、ハイイースト宣言ってのがあったんだけど、あれ、何?」
「ハイイースト宣言?」
スープを口に運んでいたシグールが首を傾げる。
「なにそれ?」
「……元ハイランドを無理矢理独立させようとしたアレのことだよ」
呆れた顔でルックが言うと、あーとシグールは手を打った。
「セノが王様やるハメになったあれ」
「そうですね」
頷いてセノは水を一口飲むとパンをちぎる。
「結局、揉み消そうとがんばってる間に名前がついちゃって」
デュナンの教科書には載っていないくらいの扱いなんだが。
「正確にはハイランド復活宣言だよね」
バターを塗りながらクロスが言うと、ジョウイは苦笑する。
「復活されちゃ困りますけどね」
「ハルモニアは復活させようとしたでしょう? ハイイースト動乱」
昔の出来事を持ち出すと、テッドがそーいやぁそんなもんもあったなあと答える。
「あれは……ルックが一番詳しいんじゃないのか?」
なにせ、渦中の国にいたんだし。
その言葉に全員の目が向けられるが、ルックはぶすっと知らないよと答える。
「中枢にいなかったし、興味なかったし」
「命がけで戦った国の存亡に興味なしかよ……」
「僕は別に命がけでやったわけじゃないしね」
さらりと答えてルックはスープを食べ終えた。
「ハルモニアがハイランドを復活させたがったのは、他国との間の緩衝材がほしかったのもあるだろうね」
あと、獣の紋章とか厄介なもの押し付けたかっただろうしね。
今はアレどーなってるのか興味もないけど、たぶんまだハルモニアにあるし。
そう言いながら横に目を走らせて、何、と尋ねる。
「ハイイースト宣言、結局どういう話なのか、僕あまり知らないんだけど」
「ああ、規制かけたからね」
ラウロの当然の疑問にジョウイは頷いた。
「規制って」
「まあ、ちょっと僕らががんばっちゃって」
「ちょっと? あのどこがちょっとだ、お前あの首謀者に何したんだよ」
たらり冷や汗をかいたテッドが隣のシグールに問いかける。
「そういえば、あの人どうなったの」
「あの後ぱったり表舞台に顔出さないから、僕わかんないんですけど」
ねえジョウイは知ってる? とセノに尋ねられて、彼は顔を極力シグールから避けながら呟いた。
「……廃人になって屋敷の奥に幽閉された」
「……シグール、何やったんだよ」
リーヤの何か言いたそうな視線にシグールは笑顔で答える。
「ちょっとソウルイーターと魂のランデブーちょっと手前をしてもらっただけだよ」
「だけ? だけか?」
何がその首謀者に起こったのかそこはかとなく察したラウロが青ざめた。
「話題、変えていいか」
「変えてくれ」
テッドの了承を得て、他の話題を振る事にする。
「……あー、しばらく前の国境紛争のこととか」
一年程前にラウロの出身国ラナイとデュナンとの間の紛争の事を持ち出すと。
「あれは僕とルックがわざわざ前線出撃してさー」
笑顔で運ばれてきたメインを切りながらクロスが答える。
「その間リーヤはお城でお留守番だったよね」
「うん、長かったよなー、三ヶ月くらいいなかったー」
「……前線?」
今なんと?
思わず問い返したラウロに、セノが丁寧に答えてくれる。
「あのね、思ったよりラナイが強くってね、特に紋章隊! 内乱から三年しか経ってないのに、すごいまとまりもよくって」
長引いちゃったから、指揮者がいるようになっちゃって、それでも僕やジョウイや将軍とかは動かせないから、クロスとルックに頼んだんだよ。
しばらく前の戦争の真相をにこにこと語るセノに、ラウロはあんぐり口を開けた。
「……それ、まだ」
「まだ緘口令敷いてるから、よそで口に出したら」
くい、とジョウイが笑顔で自分の首をかき切る動作をする。
「処刑モノ」
「……気をつける」
「いつになったらいーの?」
リーヤの質問に、笑顔のままジョウイは返答した。
「あと最低三十年」
「…………」
「戦争の主戦力に自国民以外を投入するというのは」
しかも一応一般人。
「なんとでも言ってくれ、あれを機にガッポリ稼いだ奴もいるから」
手厳しいラウロの言葉に、ジョウイは添えのポテトを食べながらシグールの方を顎でしゃくる。
「いやだなぁ、僕は物資と武器の供給を増やしただけだよv」
あと、ハルモニアも右に同じでね。
だから同罪同罪☆とヌかしたシグールは、ちゃっちゃとメインを食べ終える。
デザートが運ばれてくるまでの間に、クロスがにこやかに普通の話題を振った。
「二人とも、学校はどう?」
「クロスの料理のが美味い」
「……僕はそろそろ一人部屋に移れるんだけど」
引越しの準備がめんどくさそうだな。
そう言ったラウロに、りーやに手伝わせればいいさとルックが発言する。
「ルックんなこと言うけど! ラウロの部屋めっっっっっちゃ本が多いんだよ!」
「人のこと言えるか」
「俺の部屋は本そんなに多くない、たぶん」
「多い、お前の部屋はベッドの下に全部押し込めているだけだ」
僕は外に並べてあるからその差。
きっぱり言い切って、ラウロはだいたいなと続ける。
「何でもひっちゃかめっちゃかに置いて、整頓しろ整頓」
「してる! 俺は何がどこにあるかわかる!」
「部屋が汚いヤツは皆そう言うんだよ」
「あ、それ正しい」
横からクロスが口を挟む。
「ルックの部屋も結構ぐちゃぐちゃだよね、足の踏み場がない」
「あれは足の踏み場がないように物おいてるだけだよ、部屋が汚いのはシグールだろ」
使用人がいない定住生活は一生できなさそうだよね、と言うと、そんなことないもんとシグールは唇を尖らせる。
「テッドが綺麗にしてくれるもーん」
「……俺はお前の使用人ってコトかそれは」
「僕はリーヤの使用人じゃないから手伝わないぞ整理」
「引っ越すのは俺じゃねーもん」
かんけねーもんと肩をすくめてリーヤは運ばれてきたデザートを食べ始める。
同じくフォークを持ったラウロが、バカかお前と呟いた。
「来年はお前も部屋移動するぞ、学年変わるから」
「……うそ」
「嘘ついてどうする」
だから、来年までにあの部屋なんとかしておかないと死ぬ目を見るだろ。
そう言って黙々と食べだしたラウロからリーヤへと視線を移して、一同は笑った。
***
200年後、例の六人+リーヤとラウロ。
・・・総数八名を一気に出すと、誰が何だかわかりません。
気合と愛で読み分けてください。
ジョウイ宿星当てリクエスト第1弾。
壱季壱李様のみお持ち帰りOKです。