ここ、グリンヒルは、様々な学問を学ぶ生徒がいる場所だ。
無論その道では大陸屈指の人物もいたりして、国外からの留学生も多い。
―――の、はず、なんだが。
「頼むよラウロ君」
「先に話を持ってきたのはわしじゃろう」
「もうっ、墓場に足突っ込んでいる先生方は下がっていてください、これからは未来の」
「若造が何を抜かしておるか、今こそ新風をだなぁ」
「あの、先生方……」
呼び出された「真面目な優等生」ラウロは、その青の瞳を細めて言った。
「そーゆー話は本人にしていただけません……?」
友人の僕じゃなくて。
<真直ぐに前だけ見てる君>
なんとなく待ち合わせ場所と化している図書室で、相変わらずリーヤはぶ厚い本を読んでいる。
リーヤとラウロでは選択している授業が半数ほど食い違っているので、丸一日ほとんど顔を合わせない事もたまにある。
ガタン
「あ、ラウロよ……」
お、と続けようとして、リーヤは黙った。
目の前で古びた本を広げた彼の視線が、冷たい。
何かやったかと思い返しても、特に何も思い出せない。
「ラ、ラウロ?」
「リーヤ」
「うん?」
「僕が今までどこで何をしてたか当ててみろ」
「は? そういえばちょっと遅せーなー……あれ?」
柱時計を見たリーヤが固まる。
「もう夕飯の時間過ぎてんじゃん!! ひでぇっ、ラウロ勝手に一人で食べて――へぶっ」
正面からべしっとリーヤの頭を引っぱたいたラウロは、あのな、と疲れたように呟いた。
「今の今までご教授軍団に囲まれてたんだ」
「なんで?」
「……お前が、」
お前が、と呆れたように言う。
「お前が、実力あるくせにどの授業もとってないからだよ」
「は?」
こいつは……と呟いてラウロは頭を抱えたくなったが、リーヤ相手にそんな事をしていても何も変わらない。
言って聞かせて言い含めてそれでもダメなら態度で示し。
……会って半年近く、すっごく頑張っている気がする。
「だから、この間の大会で魔法使っただろ? アレ見てそっちの教授が授業取らせろっていうし、考古学の教授もお前がシンダル文字読めるって知ってぜひほしいとか、あと武道の」
指折り数えてやると、うげーという顔をしたリーヤが溜息を吐いた。
「けどさー、テッドが取るなって」
「テッドさんって、お前の兄さん?」
「は?! ちげーって……あの人はなんっつーの、えーと……」
適切な表現に悩んでいたらしき顔を上げて、そうそうと言う。
「お目付け役!」
「お前じゃ骨が折れるだろうな」
「俺じゃねぇよ!」
あそこまで性格も歪んでねーし良識抜け落ちてもねーし、奇怪な言動もするわきゃねーだろー!? と一人で怒鳴っているリーヤの口を、ラウロは椅子から身を乗り出して塞ぐ。
「ここ、公共の場。黙れ」
「あひ(はい)……」
大人しくなったリーヤの口から手を離し、ラウロは話を元に戻した。
「だからな、ちゃんとお前から断りにいくかなんか……なんだ?」
じーっと机の上に顎を乗せて、ラウロを見ているリーヤに言葉を切って問う。
にかっと笑ったその笑顔に、なんとなく嫌な物を覚えたのだけど。
「めんどいからヤダ。ラウロよろしくなーv」
「……はい?」
「じっさんばっさんと話すのめんどーじゃん? 俺向いてねーし、話し合い」
そういう問題じゃないだろう……? と怒りオーラが見えそうなラウロに、リーヤは笑う。
「俺は俺のしたいことしてんの。政治学も経済もけっこーたのしーし」
「ここの教授に気にいられれば、将来安泰なのに」
「ンなやっやこしーことわっかんねー」
「……はいはい、お前は気楽に生きれていいな」
なんだよそれ、と言ってリーヤはまーでもなーと呟いた。
「今は気楽だぜ? フツーにしてても三食食えるし」
え? と声にならない声を返したラウロに答えたのかそれとも違うのか、リーヤは澄んだ色の瞳を傍らに積みあがっていた本に向ける。
「夕飯どーすっかなー、残りモン漁るか」
「リーヤ、今の……」
「ん? ああ言ってなかったっけか? 俺拾われたんだよな、その前はさー、もー浸かる汚水もないくらいすっげートコで」
けらけら笑いながら言った彼の目の中に。
一瞬だけ暗い影が掠めた。
「――……そう、だったのか」
「ああ? 何くっれー顔してんだよラウロ! 六年も経ってんだぜー? 俺が忘れたっての」
ほらメシメシ、と急かされてラウロは立ち上がる。
自分の手をぐいぐいと引っ張っていく友人の後姿を見ながら、目を少しだけ細めた。
この幼い友人の、底知れない強さの源を、少しだけ感じ取れた気がした。
***
フツーに友情っていいですよね(癒され中
なんかもう汚れたりスレたり完全になじんだりしてばっかだったので(そうしたのはお前じゃ)心洗われる……腐
女子の私の心が……。