初めて会った 時
その強い光を放つ眼 とか
あたりを穏やかにさせる雰囲気 とか
君の強さを感じさせることばかりではなくて

ふと セノとナナミを見た時に
一瞬瞳を走った その影に
僕は 捕えられてしまった





<愛しき人 強き人>





…………
……………………
名前を呼ばれた気がして、シグールは眠りから浮上する。
目を開くとそこには黄金色の海があった。
「……ん?」
ぐいと眼をこすると、今度は焦点が合う。
「シグールさん、起きてください」
「なんだぁ、ジョウイか」
「グレミオさんが卵は何にしますかって」
ふわ、とあくびをしつつシグールはベッドから下りる。
「じゃー、スクランブルで」
「わかりました」
セノもナナミも待ってますから早く下りてきてくださいね、と言って先に行ったジョウイの後姿をちらと見て、シグールはようやく着替えを始めた。

ようやく下りてきたシグールは、食堂に人影がない事に気付く。
……あの後二度寝したし、当然かもしれない、というか当然だろう。
グレミオもいないかな、と思いつつテーブルの方に行くと、一人座ってカップを傾けている人がいた。
「おはようございますシグールさん」
「ジョウイ、何してるの」
「僕は色々してたら遅くなってしまって。セノとナナミとグレミオさんは買い物に行きました。あ、卵冷めてますから作り直しますね」
立ち上がって椅子を引き、どうぞとジョウイは笑顔で席を勧める。
無言でシグールは腰を下ろして、足をぶらぶらさせながら磨かれた銀食器を持ち上げて、ちんと食器を鳴らす。
「ジョウイ」
「はい」
「やっぱりフレンチトーストが食べたい」
一瞬の間も空けず、爽やかな彼の声が返ってくる。
「少し時間かかりますけど」
「……あのさジョウイ」
「はい?」
何ですか、と声が返ってくる。
「なんで残ってたわけ? セノとナナミと買い物は?」
「いいじゃないですか別に……どうかしました?」

卵を割る音がする。
それとそれをかき混ぜる音と。
そしてじゅーっと焼ける音。
「あのさ、君の大事な幼馴染についてなくていいわけ?」
「僕の大事な幼馴染は別に張り付いていなくても平気ですよ」
「そのために国まで売ったのに?」
明らかに棘のあるシグールの言葉に、ジョウイは答えを考えてゆっくり返す。
「……そうですよ。でもそれは、僕の側に常に置いておきたかったからじゃないです」
「違うの」
違います、と言いながらジョウイはフレンチトーストをシグールの前に置く。
「じゃーなにさ?……他に方法がないなって思ったんですよ。セノは――僕を殺すことは絶対にできないなって」
「……あ、っそう。麗しいご友情ですねぇ」
かしゃん、と皿の上にナイフとフォークを投げつけてシグールは席を立つ。

「シグールさん、僕なにか……その、すみません」
シグールさん、と立ち上がって追ってくるジョウイを振り返って、シグールは睨む。
「何がわかるんだよ」
「…………」
「よかったじゃないか、親友同士で互いに殺し合えなくて、紋章のおかげで助かって? めでたしじゃないか、ばんざいじゃないか、よかったね!」

そう言って、シグールは拳を握る。

どうして。
どうして、どうしてセノとジョウイは、助かって。
どうして、どうして。

望んでなんかいなかった。
その道を選んだわけでもなかった。
もし自分がセノの立場だったら、はなから戦争なんて起こしやしなかった。
ただ二人で、遠い場所へ行って――それでも、よかったのに。

どうして僕は。
僕とテッドは。
僕らは、別れてしまったのか。

「どうしてだよっ!」
「シグールさん……」
「どうして君達は生きてるのさ! どうして……どうして――……どうして、テッドは死んだんだよ……」
こぼれた言葉に、納得ができた。
彼のあの、陰りの理由。
そしてさっきの、言葉の意味が。
「……シグールさん……」
「なんでさ、なんで僕には……」

ハッピーエンドが、なかったの?
大切なものが、すべて指から零れ落ちたあの絶望が。
どうして?

「シグール、さん」
「――ほっといて。君に僕の心はわかりはしない、だろう? 大事な幼馴染を囲って守ってやりなよ?」
そう言ったシグールの肩に、ジョウイはゆっくりと手を伸ばし――触れる。
叩き落そうと体をひねったシグールの手を捕まえて、見下ろす。
「そんなことを、言わないでください」
「はなせっ!」
「……わからないけど、わかる努力はできる。あなたはなんでも自分の中に抱え込みすぎで……僕とよく似てる」
「……不愉快だね」
「すみません。でも、だから言いたいんです。あなたを理解したい人はたくさんいる。セノやナナミや、グレミオさんや」
「君だって?」
歪められた顔で言われ、ジョウイは微笑む。
「――はい、僕も、です」
「僕を嘗めてほしくないね、ジョウイの癖に」

その言葉と共にシグールは本気を出し、あっさりとジョウイの手を振りほどく。
「それとも何? 君はセノより僕の方が大事なわけ?」
「!」
赤面して黙ったジョウイににやりと笑って見せて、シグールは踵を返した。







***
ジョウイが偽者のようですがセノに対するジョウイはたぶんこんな。
坊が負けてますね
……このタイプに弱いのね……。