<かつて星を抱いた>
無言で正面に腰を下ろす。
持ってきたポットを上げて見せると、笑ってカップを差し出した。
「――……」
一口すすったテッドは、小さく眉を上げる。
「びっくりした?」
「ああ……驚いた」
「特別に仕入れてみたんだよね」
値は張ったけどさ、と笑ってクロスもカップに口をつけた。
今はもうない 昔の香り
「懐かしいな」
「ふふ、覚えてる? テッド」
「なんだ?」
「初めてこのお茶淹れた時ねえ、テッド飲まずに席を立ったんだよ?」
「……覚えてます」
申し訳ない、と言ってテッドはお茶をすする。
群島でしか作っていなかったお茶。
今はもう、生産を終えてしまっているという。
独特の風味と香りで、あの頃に戻ったような錯覚を覚える。
もう――二百年近く前になるのか。
「シグルドが、好きだったな」
「シグルドは僕の淹れたお茶ならなんでも好きだったよ」
そう言うと、クロスは微笑んでカップを持ったまま肘をつく。
湯気立つ液面に自分の顔を映して、想う。
「ねえ、今だから聞くけど」
「なんだ?」
「――僕はちゃんと、軍主だったかな?」
穏やかな目でそう言ったクロスに、テッドはお茶を一口飲んで答える。
「今更か」
「……そう、今更だよ」
「とうに歴史になってんだろう」
「歴史は真実を語らないよ」
そうだな、とテッドは頷くと深く腰かける。
歴史は絶対ではない、語る者によってその姿を変える。
それはよく分かっていた。
だからクロスは聞いているのだ。
他の誰もがとうにいなくなって。
寓話と伝説と、古びた書物でしか語られなくなった彼の本当の姿を。
「……じゃあ、軍主とは何か?」
「軍を導く者?」
「――ならお前は立派にやったさ、だろ?」
ズルイ、とクロスは唇を尖らせる。
「僕はテッドに聞いてるのに」
「……俺が平等な答えを返せると思うなよ」
「平等な答えなんて聞いてないよ」
何言ってるのさ、と言いながらクロスはテッドのカップにお茶を足す。
「僕は、テッドに聞いてるんだよ?」
「なんで……」
「安心したいから」
「安心?」
「テッドは、厳しく僕を見てくれたと思うんだ。そのテッドが合格点をくれれば、僕は無難な軍主だったってことになるでしょ?」
お前な、と呆れてテッドは苦笑した。
本当にこういうところも、変わっていない。
いい歳して、と言うとそっちこそと返されそうだったから言わないけど。
「――どこまで自分に厳しいんだよ」
「そう?」
「……そうだよ。一番お前に厳しいのはお前自身だろ」
「そう、かな」
「自分としてはどうだった?」
問われて、考え込む事もなく、クロスは答えた。
その答えは、もうあの時に出ていたから。
「いい軍主だったと思うよ。いい軍主を、『演じた』よ、僕は」
「それでいいだろう」
「――……そう、だね」
そうだね、ともう一度繰り返して。
もう一度クロスは冷めたお茶に顔を映す。
「……気付かなかったよね?」
そっと問われた言葉に、テッドは苦笑いをした。
「バカ、そういうもんだよ」
***
クロスとテッドでお茶を飲みつつ過去を語り……過去を語り?
ギャグに転ばない題材が余りありませんでした(待