<花をも眠りし>





ふに。
「テーッドー」
ふにふにふに。
「テッドー、おーきてよー」
ふにふにふにふに。
「じゃかましい!!」

寝ていたテッドは自分の頬を引っ張って遊ぶシグールの手を掴み、ぎんと寝起きの顔で睨み上げる。
にこぉっと笑ったシグールはうにょーんとテッドの頬を反対側の手で掴んで引っ張った。
「おーきて☆」
「……いま何時だと思ってやがるんだ」
「にじー」
「夜のな!」
怒鳴ったテッドにシグールはにこりと返す。
「テッド、起きて」
「……俺に拒否権はねーのかよ……」

ぶつくさ言いながらテッドはシグールの腕を放し、テッドはよいしょと体を起こした。
ベッド横に投げてあった上着を引っつかみ、袖を通さず肩に羽織る。
春先とは言えど、この時間帯はさすがに……冷える。
「で、草木も眠る丑三つ時に何の用事ですか」
「花見酒しよ」
手でくいっと酒を飲む動作をして言ったシグールに、テッドは不機嫌な顔を隠さず言う。
「……素直にこの時間になった理由を言いやがれシグール」
「トイレに起きたら月が綺麗だったから、これを見ないテッドは可哀相だなってね?」
優しいでしょと言ったシグールは片手にいつの間にか酒瓶を携えている。
半端な時間に起こされて、眠気が渦巻く頭の奥で頭痛の兆候を感じて、テッドは米神を押さえた。
「そうか……眠くなくなったから俺をたたき起こして一晩飲み明かすつもりだな?」
「えへv」
ぺろと舌を出したシグールの頭を小突いて、テッドは廊下の壁に手をつく。
冗談じゃない、こちとら寝不足なのだ。
せっかく今日はちゃんと寝れると十一時には床についたのに、それを無駄にさせる気か。

「えへじゃない、お前昨日も飲んだだろう」
しかも徹夜で。
ジョウイを巻き込んで。
なお巻き込まれたジョウイは二日酔いで朝も昼もダウンしており、夕食もそこそこにさっさかセノと寝てしまっている。
対するシグールは昼過ぎには頭痛も消え去り元気そうだったので……人間って不平等だ。
「飲もー。どーせテッドはワクだからいいじゃん」
「お前に酔わない人間の苦労がわかってたまるか」
飲んで酔って、いい気分になって。
――その時間を共有するのはきっと楽しいだろうに。


そうこう言っている内に、シグールは屋根の上へと行ける窓を潜り抜け、外に出ていた。
「ほらテッド」
見て、と彼が指した先には。

満開の花と、
それを照らす白い月光。

「……綺麗だな」
「でっしょー、ささ、飲も飲も」
屋根の上で酒盛りをする時の自分の定位置に腰かけ、シグールは酒をテッドに注ぐ。
「――なあ、シグール」
酒杯に口をつけたテッドに呼びかけられて、庭を見下ろしていたシグールはなあにと振り返った。
「お前はやかましい席の方が好きだろ、昨日だって散々ジョウイいびり倒したし」
「やだなぁ、僕はジョウイと親睦を深めてたんだけど」
「とにかく、俺と飲んで絡むなよ? 俺が酔えないのは知ってるだろ」
悪いが上機嫌になったお前と同じテンションは無理だからさ、と言ったテッドにシグールは後ろから抱きついた。

「テーッド」
「な、なんだよ」
「別にいいんだって、僕はテッドと飲みたかったの」
「…………」

無言でテッドは杯をあける。

「綺麗だったから、一緒に見たいと思ったんだし」
「もう酔ったか」
そう返されて、シグールは身体を離すと自分の酒を一気に流し込む。
「そんなことないもーん」
「お前……またそうしてつまみなしで飲む……」
「テッドも酔うでしょ」
「はぁ? だから俺は飲んでも酔わな……」

違うよ、とシグールはテッドの言葉を遮って地上を指差す。
「この景色なら、酔えるでしょ?」
「……くっ……くっくっく、あはははは!」
肩を震わせて笑いだしたテッドに、シグールは一瞬きょとんとしたが満足そうに笑った。
「ね?」
「――ああ……そうだな。存分に酔わせてもらうよ」

テッドが持ち上げた酒杯の中の酒の水面に。
風に舞った花びらが一枚、すっと浮かんだ。





 


***
ペア投票僅差で2位だったテド坊です。
ギャグの予定でしたが二人だとあまりギャグにならないですね。

坊が輝くにはジョウイが必要なのかもしれません。