<ヒミツの話>



え、あの人からのプロポーズがどんなだったか?
教えちゃって怒らないかしら……ああ、でもあなたになら大丈夫ねきっと。
どうしてかって?
ふふ、それはね。

あの人のプロポーズはね、「俺にはこの世で特別な奴が二人いる。その二人と同じくらいお前を大事にするから、一緒になってくれ」だったわ。
回りくどい上に失礼だって?
そうね、そうかもしれないわ。
けど嘘を吐けないのがあの人のいいところだもの。
馬鹿正直すぎて、思わず笑っちゃったわ。あの人はどうして私が笑っているのか分からなかったみたいだけど。





付き合い出してから知ったのだけれど、昔、あの人は恋人を失ったのよね。
ええ、知ってるわ。あの人が話してくれたし……あの人の剣にはその人の名前がついているんですもの、特別な存在だったと察しない方が不思議でしょう?

とても強い人だったんですってね。
強くて凛々しくて、優しい人。あの人と肩を並べて戦える人。
私は刃物は包丁くらいしか持った事がないから、少し羨ましいかしら。

その人の話をするあの人はとても慈しむような顔をするから、本当に大切な人だったと思うの。
え……そうね、妬けないっていえば嘘になるけど、仕様がないじゃない?
その女性はあの人の中で「特別」で、私がどうこう言えるものじゃないわ。
忘れてなんて言えないし、言わない。
だってその女性がいたから、今のあの人があるのだもの。
それに、こんな言い方はその人には失礼かもしれないけれど、私は今生きていて、あの人と共に生きていけるのだから、いいのよ。





どちらかといえば、もう一人の方が強敵なのよ。
え、誰かって?
……あなた。ええ、あなたよ。
名前を出しはしなかったけど、分かっちゃうわ。
きっとあの人、いざという時私よりあなたを優先するんでしょうね。
口では悪態ばっかり吐いてるけど、あなたのこと、すごく大切に思ってるって私には分かるの。
え、嘘だろうって?
ふふ、そんな風に顔を赤くしてたらバレバレよ?

そうね……たしかに妬けるわよ。
なにせ、彼女と違ってあなたは今も生きているんだもの。最大のライバルよね。
……けど、そうね、怒る気にはならないし、あの人のプロポーズを断る気にもならなかった。

彼女とあなた。二人と同じだけ大事にされるなら、十分すぎるくらいに愛してもらえるって確信が持てたから。
胸を張って人を愛していると言えるあの人を誇らしく思うから。

……ええ、もちろん大好きよ。
だからね。





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「もう好きにこき使ってくれて構わないから☆」
「ありがとう奥さん」
「いやぁね、フレイって呼んでv」
「ありがとう、フレイ」

「俺のいない間に何があった……!?」
家の玄関のドアを開けたところでフリックはわなわなと肩を震わせた。

愛妻の待つ家に帰って最初に目にした光景が、かつてのリーダーであり今の天敵であるシグールが妻と手と手を取り合って笑いあっているというものなのだから、肩のひとつも震わせたくなるというものだ。

「フレイから離れろこの疫病神!」
「おかえりなさい、あなた」
「フレイ、今すぐそいつから離れろ!」
「フリックー、せめてプロポーズくらい嘘でも「世界で一番お前を愛してる」くらい言わないとだめだろ」
フレイの手を離す素振りを見せずに言うシグールに、フリックは表情を凍りつかせて妻を見た。

プロポーズの言葉は誰にも話していない。
相棒である熊にすら、散々聞かれたが頑として口を割らなかったのだ。
それも全てはここにいるシグールに伝わるのを防ぐためだった、というのに。

「フレイ……?」
「シグール、もしこの人がそんな舌の回るようなことが言えればもっとうまく世間渡れてたわよ」
「それもそうだね。けど、バカ正直に元カノと自分とこのリーダーを優先しますなんてプロポーズで言うかね」
「そんなバカ正直なところが好きなのよ」
「うわぁノロケごちそうさまです。っていうか、僕ってフリックに愛されてるよね」
「ほんっと、妬けちゃうわぁ」

あはははは。
うふふふふ。

手を手を取り合ってにこにこ笑っているシグールとフレイを見つめながら、フリックは自分の視界が揺れるのを自覚した。





***
フリックの奥さんによるプロポーズ秘話暴露話。
単純にフリックをいじりたかっただけですが、フリックの中でこの二人は不動の位置なのです。