<L(ライン)>
「わー!?」
「どうした!?」
いきなりリビングにまで届く大声をあげたシグールに、何事かとテッドは慌てて駆けつけた。
ある一点を睨みつけて微動だにしないシグールに、テッドは彼の視線を追う。
しかしその先には棚があるばかりで、何かが落ちているわけでもなく、テッドは首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「……出た」
「何が」
「出たといったらアレの他にいるわけないじゃないか!」
叫ぶシグールに、ああ、とテッドは溜息を吐いた。
シグールがいう「アレ」とは、茶色くて小型なGで始まる生物だ。
お坊ちゃん育ちでそれを見る機会があまりなかったのも要因かもしれないが、普段もっとグロテスクなモンスターを山のように見て、それを叩き潰しているはずなのに、いつまで経ってもシグールはそれだけは慣れない。
名前を呼ぶのも躊躇われるらしく、曰く、名前を口にすると呼ぶ気がするからだそうだ。
どこの幽霊の話だ。
「……根絶やしにしないと」
「落ち着け、なにをそんなに」
「知らないの!? 一匹見たら三十匹いると思えって格言を!」
「格言じゃねえよただの一般論だ!」
「三十匹もいるなんて堪えられない!! ――ひっ!」
引き攣った声をシグールがあげる。
なんだと見れば、一度棚に隠れていたそれが出てきたのだ。
思ったより小型だ。茶色も薄い。
なんだまだ小さいじゃないかと呆れていたが、シグールはまるで親の敵のような目でそれを見ている。
その時。ひゅん、とテッドの頬を何かが掠めた。
それは「G」の僅かに横の床に突き刺さり、驚いたのか本能的に危険を感じたのか、「G」はカサコソと棚の奥に逃げてしまった。
「ち」
いつの間に台所まで来ていたのか、床に付き立ったナイフを抜いて、クロスが舌打ちした。
目が怖い。ハンターの目だ。
あれはそう、金欠にあえいでいた時に、アクセサリの材料となるモンスターと資金稼ぎにオベル遺跡に潜った時によく似ている。
なんでそんな目を台所で見なければいけないのか。
「逃がしたか……こっちのは小型だから捕まえにくいんだよね」
「……群島はもっと大きいの?」
ぼやいたクロスにシグールが恐々と尋ねた。クロスは頷く。
「うん? これくらいはあるかな」
ひょいと示したサイズにシグールが軽く引いた。
「それなりに大きいと、別の生き物って感じがするけどね」
「う、ううん……そういうものなのかな」
「モンスターだと虫系でも平気でしょ? 小さいのがカサカサ動くから嫌なんじゃないかな」
「ふむ……」
「いっそモンスターと思えば?」
「……一緒にしていいのか?」
どことなく別物という線引きをしていた身としては、異を唱えたかったが、それで納得したらしかったので、まあ良しとしよう。
***
新刊のネタにしようとしてボツったもの。
ネタにする程度にはキライです(笑顔