<遠き空のもと>





少し前を行く彼の髪を、片手突っ込んでかき回した。

「ったっ、いきなりなにすんだシグール」
笑って振り向いたテッドが、シグールの手を掴んで止めさせる。
「あ、抜けた」
「げ、やめてくれよ」
大丈夫と言ってシグールははらはらと指の隙間から数本の茶色のそれを落とす。
「どうせこれ以上年取らないなら禿げないし」
「いや、世の中ストレスで禿げる人間もいるからな」
お前といると俺がそうなりそうだよ、と呟いてテッドはわしわしと自分の頭を掻いた。
「テッドは僕といるとストレスなんだー?」
「……ストレスじゃねぇって自己評価できるのか?」

苦笑しながら言われたその言葉に、むーと口を尖らせて、シグールは腕を組んだ。
「そんなこと言うなら、テッドがいない間に見つけた釣りスポット教えてあげなーい」
「じゃあ俺とグレミオさんで用意してやった弁当を食う許可やんね」
「あ、卑怯だー!」
ずるーいと頬まで膨らませたシグールにあっはっはと笑いながら、テッドは先に進んでいく。
追いかけて追いついたシグールは、テッドの横に並んで上を仰いだ。

「ねえ、テッド」
「ん?」
視線だけ向けてきた彼にくすり笑って、彼の右手の指に自分の左手の指を絡める。

「……あの日も、こんな空だったね?」

そう言われて、思い出す。










シグールがテッドと親しくなってきたある日の事だった。

「テッド、釣り行くんでしょ、僕も連れてって!」
「は? 俺の釣りは遊びじゃねーぞ?」
今晩の夕飯がかかってるんだと言われても、シグールは喜色に満ちた顔を動かさない。
「僕だって釣りしたい!」
「……したことねーのか?」
「うん!」

こくこくと頷くシグールを暫く見ていたテッドは、はぁと溜息を吐いた。
その溜息は自分のお願い事を聞き入れてくれた証だと知っていたシグールは、やったと飛び上がる。
「何が要るの?」
「金具と、グレミオさんにもらった糸」
「と?」
「だけ」
「え?」

で、でも、とシグールは歩き出したテッドを追いながら言う。
「竿、とか使うんじゃないの?」
「使う」
「どこにもないよね?」
「ないなぁ」
のらりくらりと答えるテッドに、んもーっとシグールはぐいと彼を腕を引っ張って無理矢理止める。
「どういうこと?」
「現地調達ってこと。ついでに餌もな。お前ミミズとか平気だろうな?」
悲鳴上げても面倒みねーぞ?
そう言われて、へ、へいきだよとシグールは返した。










「……思い出すなぁ」
エサのミミズが捕まえられなくて、上手く仕掛けれらなくて、さらに魚も全然釣れなくて。
最後には悔しくて悔しくて涙目になりながらも、シグールはずっとテッドの横で糸を垂らしていた。
何度か一緒に行ったが、「勝負だ!」と挑むものの常にシグールの大負けで。

「下手だったなぁ」
「今は上手くなったからいいもん」
「……そういや、俺が戻ってから初めてだな」
四年以上経ったんだし、そりゃ上手くなってるか。
そう言ったテッドの横顔が少し寂しげに見えて、シグールはぎゅっと彼の手を握った。
「あたたたたたた」
「僕はっ、まだテッドより下手だからねっ」
「は? そーなの?」
唐突に言われて、テッドは思わず目をぱちくりさせながらシグールを見る。
「だから、もっと上手くなるまで勝負してやんないからっ」
そう言うとぱっとテッドの手を離して、たたたたたと走っていってしまう。
「……なんだそりゃ」
苦笑したテッドの声が聞こえたわけではないだろうが、ぱっと遠方でシグールは振り返って口に手を添えて叫んだ。

「その前にまたいなくなったら僕の勝ちだからな!」

「……ばーか、もういなくならねーって言っただろ」
小さくなっていく後姿を見ながら、テッドは呟いて空を見上げた。

そう、こんな青い空の日だった。


 

 



***
テッド「ナンデスカ、この、青春さわやか☆な小話は」
シグール「人気投票一位ありがとうSS」
テッド「
……そうか、お前一位になったのか、おめでとう」
シグール「テッドも三位だったのでセットにv」
テッド「俺にもなら昔の回想が長い方が嬉しいなぁ」
シグール「
……テッド、今の僕嫌いなんだ」
テッド「いや、そういうわけじゃアリマセンケドネ?」

シグール「僕もこんなにかわいいんだね新発見vをしてくださいね☆」
テッド「誰に向かって話してるんだ誰に向かって」
シグール「だって「腹黒」が定着してるからたまには白い僕を」
テッド「
……知ってるかシグール、黒は何色の光をあてても黒なんだぜ?」
シグール「それどういう意味かなテッド(にっこり」