<CATCH>
そよそよと吹く風は涼しく、緑と、微かな甘い香りを運んでくる。
それはどこかで咲いている花のもの。
マクドール邸の庭はとにかく広く、木があちこちに生えているどころか走り回るくらいの敷地がある。
そこらの公園と同程度な中庭で、ルックは木陰に座り込んで読書に耽っていた。
たまには外に出るのもいいですよとマクドール家の一切を取り仕切る人物に半ば追い出される形で外に出されたが、向こうの連中のように走り回る体力もなければその気もない。
そのあたりはルックを外に出した本人も分かっていたようで、シートと茶一式とを持たせてくれている。
不要な荷物番として、ルックは地面にそのまま座り込んで、本のページを捲っていた。
確かに今日みたいな陽気には、外に出るのもいいかもしれない。
風に揺れる髪を耳にかけてもう一枚ページを捲る。
書かれた字に目を通す前に、その隣にずだっと滑り込む影に気を取られた。
シートの上にへたり込んで荒い息を吐く彼は、冷めた目で見下ろすルックににへらと笑う。
「ルック、茶」
「自分で淹れれば」
間髪入れずに返された言葉に、最初からただの戯言のつもりだったのだろう、テッドは自分で水筒からお茶を注いで一息に飲み干す。
生き返るー、と年寄り臭い事を言って、ごろりと仰向けに寝転がった。
「あんた、汗だく」
「お前は木陰で優雅に本読んでるから涼しい顔してられるんだよ。こちとら日向で全力疾走だ」
あいつらは元気だなー、といまだ向こうで鬼ごっこなんだかよく分からない遊びに興じているシグール達を示す。
「年寄りなんだから無理しない方がいいんじゃないの?」
「うるせぇ……」
「だいたいその言葉自体が年寄りって言ってるようなもんだよね」
「…………」
ぱたぱたと襟元を動かして、テッドは大きく息を吐く。
しばし二人とも何も話さず。
なんとなく、ルックも本を捲る手を止めて、日向にいる彼らを眺めていた。
「テッドー、生きてるー?」
張り上げられた声に、ルックとテッドは日向にいるシグールを見た。
手を振っているシグールに、起き上がらず、ひらひらと手を振る事で応えるテッドに、シグールは年寄りなんだから無理しちゃだめだよ、と笑って視界に入らないところにまで駆けていってしまった。
ぱた、とテッドが力なく手を下ろす。
なんとも言えない微妙な顔をしているのを見て思わず小さく笑うと、苦い顔でテッドはルックを睨み上げた。
「あんた、行かないの?」
「俺は疲れた」
「……なんていうか、明らかにシグールの方が過多だよね」
「あ?」
「始終一緒にいて疲れない?」
肩を竦めて、ルックは木の幹に背を凭れかけさせる。
一度は消えたテッドが、ひょんな事情から戻ってきて数ヶ月経った。
いい加減彼が消えないと理解したのか、始終というわけではなくなったが、シグールはテッドにかなりべったりしている。
その気持ちは測りかねないわけではないが、それを見ていると、シグールに対してテッドの方はかなりドライに見えるものだ。
現在ある人物に張り付かれている身としては、うざったくないのかと気になるところでもある。
テッドはしばし黙り込んだあと、よっと起き上がり、ルックを振り返ってにやりと笑い、秘密だと言わんばかりに声を落として囁いた。
「一度は諦めた場所が再び手に入ったんだから、願ったり叶ったりだろ」
手放す気なんて更々ないさ。
そう言ってすたすたと建物の影に消えていったのを見て、ルックは顔を引き攣らせて息を吐いた。
……歳を取ると、狡猾になるのは本当らしい。
***
風音様へのリンク御礼小説。
たぶんテッドも独占欲強いよねって話が書きたかったんだと思う。
微塵もでてないけどorz