<白光>
白い大地に足跡ひとつ。
積もる雪でだいぶ薄れているそれを辿って、テッドは丘の上に生えているモミの木の下までやってきた。
見上げれば、小降りになってきたものの、まだ暗い空からは白い雪がちらちらと降っている。
昼過ぎから降り始めた雪は随分積もって、今はあたり一面雪化粧だ。
枝に積もった雪の合間から見える木の枝には、いくつもの球体や細長い紐が引っかかっている。
色とりどりのそれらの中から、人の足の影を見つけて、テッドは溜息を吐いた。
いないと思って探しにきたが居場所の予想は的中だったようだ。
防寒具の手袋を取ってよいせっと枝に手をかけ、雪が付着した木の表面は掴み難いが、木登りに慣れているテッドは軽々と目当てのところまで辿りついた。
中ごろの、太い枝に座ってぶらぶらと足をぶらつかせていたシグールは、登ってきたテッドを見て頬を緩ませた。
「お前なー、何してんだよ」
「えへー……」
首を傾げて笑うシグールにもう一度溜息を吐いて、横に座る。
髪に薄く積もった雪を払って、持ってきたショールを頭から被せてやった。
解けかけた雪が絡まって、いつもより感触が硬い。
「風邪ひくぞ」
「ひかないもーん」
「言っておくが、馬鹿がひかないのは夏風邪だぞ」
「……どういう意味さ」
じとっと見てくるシグールをさあなとあしらって、テッドはすぐ足元にぶらさがっている丸い玉を蹴った。
上に乗っていた雪がばさばさと落ちていく。
そこかしこにある紐も、丸い玉も、昨日シグール達が飾りつけたものだ。
クリスマスをたまには皆で過ごそうと、数日前から準備をして、今日は飾りつけた木の下で野外パーティでもしようかと思っていたのに。
朝からちらついていた雪は昼には完全な降りになって、結局野外でのパーティは中止になった。
だからといってパーティ自体が中止になったわけではなく、今頃グレミオやクロスが料理の準備をしている。
毎年貴族の集まりにでなければならず、ようやく皆とわいわい過ごせるという事で楽しみにしていたのは分かるが、拗ねるほどの事でもないだろうに。
「シグール、戻るぞ」
「……せっかく準備したのにさー」
「仕方ないだろ、雪なんだから」
「分かってるよ」
分かってるけど、普段降ってほしい時には降らないでこういう時にだけ降るんだもん。
不満そうに、それでも頷いて、シグールは白い息を吐く。
「戻らないと先に始められるかもしれないけどな」
というか、もう始まってるんじゃないか?
「……それは駄目」
言い切って、幹の方へずれてくるシグールに苦笑して、その頭を軽く叩く。
何、と目を細めるシグールに曖昧な笑みを返して、テッドは木を降りた。
木の下からでると、雪は止んでいた。
「雲も切れてきたな」
頭上を見上げてテッドが言う。
分厚い雲の隙間から白い月が除いていて、光が差し込んできた。
積もった雪に反射して、結構明るい。
これなら灯りなしでも帰れるかな、点けかけたランタンを腰に提げなおしたテッドの服の裾を、くいとシグールが引いた。
「どうした?」
「見てあれ」
雪の積もった木は、ところどころから色とりどりの飾りが見えていて。
差し込む月の光がそれらに反射して、きらきらと輝いている。
それが更に雪にまで反射しているものだから。
「クリスマスツリー」
「……確かに」
いいもの見た、と満足げな笑みを浮かべるシグールの手を引いて、テッドは行った。
「さて、いい加減に戻るぞ」
「はーい」
屋敷への道を、さくさくと新しい足跡をつけながら。
手袋をつけていない手はそれでも温かくて。
「テッド、メリークリスマス」
「メリークリスマス」
それは雪の降る夜に。
***
クリスマスフリー配布小説。
今年はピンポイントで(笑