嫌な予感がしてたんだ。
シグールが身支度を地味に整えて、俺の手を引っ張るから。

夕方に。





<後の祭り>





「…………」
「こんばんは」
「まあ、レル様。いつもご贔屓ありがとうございます」
店の奥から出てきたのは、黒のロングドレスを纏った妙齢の女性。
長いプロチナブロンドの髪をうねらせ背中に流し、嫌味じゃないくらいの化粧はもともとの美貌を冴えさせている。
赤く塗られた唇が、煽情的だ。
……じゃなくて。
「あら、そちらは?」
「友人のトールだよ」
「まあトール様、いらっしゃいませ。以後よしなに」

軽く頭を下げた時、女性のロングドレスにはいったスリットから白い足が覗く。
ついでに谷間も。
うぉぅ、ナイスボディ、じゃないだろ俺!

一応、念のために一応、確認してみよう。
真っ当な店なら酒屋くらいしか開いてなさそうなこの時間だ、出迎えたのは美人、しかも色っぽい。
んで、今も奥の方から何人かやってきていらっしゃるお姉様方は、皆さんキワドイお洋服。
……ええと、三百歳の俺でも結論が一つしか出てこないのですが……。

「……なあ」
「溜まってるでしょ?」


た。

た。

たまっ……



否定しないが。
否定しねぇけどよ!!


「我慢は体に悪いし、だからって頼める人もいないでしょ?」
……テオ様、今、俺は、初めて。
蘇った事を、後悔、しました。
だって、シグールって、年の割にはそういう類は知らなくて、純情で、純粋でっ……!
いつからそんな子になっちまったんだ!

「じゃあ僕はカリンさんで」
「カリン、お呼びよ」
「はぁーい、嬉しいわぁ、レル様」
「トール様は初めてですから、幾人かお見せいたしましょう」

出ていらっしゃいなんて呼びかけないで下さいおかみさん(涙

「じゃあね〜また後でー。あ、料金僕持ちだし気にしないでねv」
「ちょっ――」

ここって。
ここって娼館だよなっ!?
どっからどう見ても娼館だよな!?
なんで、なんでお前が思い切り馴染み客になってんだシグールっ!?
俺の記憶が正しければ、お前二十前後だろうが!

「トール様、どちらの娘にいたします? 複数同時でも結構ですが」
「……あ、あの、あいつは、いつから?」
「レル様ですか? そうですねえ、ここ数年でしょうか。二週に一度ほどの頻度でいらっしゃいますよ」

……二週に一度。
数年前から。
……テオ様、ごめんなさい、俺が目を放したばっかりに。

「お気に召す子がいませんか?」
「……いえ、じゃあそこの黒髪の子で」
「はい、ありがとうございます」

俺が指名した女の子は、すらっとした肢体をすり寄せてくる。
……久しぶりだけど。
なんか、何ていうか、やり切れない……。

「トール様?」
「や……わりぃ」

とりあえず今は忘れよう。
っつーか忘れさせてくれ。
箱入り息子だったはずのシグールが、どういった経緯でこんな場所に足を踏み入れたのか、真相はいつか――真相なんて……。


「知りたくねぇ……」


 

 

 


***
ギャグ? 下ネタ?(たぶんどっちも違う