<コンプレックス>
地雷を踏んだのは自業自得。
別に踏みたくて踏んだんじゃないが。
「じょぉーいくーんっv」
「みぎゃああああああああああああ」
まるで潰された猫のような悲鳴をあげながら、悪魔から逃げ回っている金髪の青年がいた。
逃げてる方は、死神でも追っかけてんのかと突っ込みたくなる必死の形相で、追いかけている方は天使を見つめているかのような神々しい笑顔だ。
そんな、あまりに妙なオーラをかもし出す二名から、意図的に視線をそらす青年二名、少年一名。
のほほんと見つめる少年一名。
「な〜んでにっげるのかーな?」
「ぎやぁぁぁぁああああ」
「……不憫だね」
「……助けたら」
「……誰がだよ」
「なんか楽しそうな鬼ごっこですねー」
一人、テンポから雰囲気からズレまくったコメントを発した子に、ぉいと突っ込みたそうな顔をしたテッド。
セノはほえほえと笑いながら、美味しそうにおやつを食べている。
「あれが鬼ごっこに見えるのか、セノ」
「? 違うんですか?」
「……真面目に命かかってるけどね」
ぼそっとつぶやいたルックの物騒な台詞は、真実である。
「ったく、いい歳して身長なんざ気にする」
なよ。
言いかけたテッドの科白は、じとーっとした視線に阻まれる。
「テッドさんは大きいからいいですよ」
「……人の痛みを理解しようとしないなんて最低」
「スイマセン失言でした」
そう。
現在シグールが笑顔でジョウイを追いかけ回しているのは、こうなる直前のジョウイの言動にあった。
廊下の曲がり角でぶつかりそうになったシグールに、ジョウイはこともあろうにこう言ったのだ。
『シグールの頭は固そうだから、胸にクリーンヒットしなくてよかった』
……と。
つまり、シグールの頭の位置=ジョウイの胸の位置と言ったも同然である。
さすがにそこまで身長差はないし、いくらシグールでも、そこで激怒はしないだろう、が、しかし。
実は坊ちゃんは、結構ひそかに気にしている。
「うふふふふふ、いっつまで逃げる気なんだい、じょーいくんv」
……そりゃ、右手の紋章振りかざしていたら、精根尽きるまで逃げるだろう。
「ぅあぁああぁぁぁああ」
「痛くしないよー? ちょっと気が遠くなってそのままサヨナラさ★」
「いやぁだだああああああああ」
「あっはっはー、逃げ回って僕に勝てると思うのかな〜? ほらほら〜端っこからゆっくりとーv」
「ひぎゃあああああああああああ」
「……助けてやりなよ」
「……誰がだ」
「……煩い」
「ジョウイとシグールさんは、おやつ食べないのかな?」
クロスとルックに「これ以上騒ぐとコッチが迷惑」という視線を向けられて、あれが止められるのだろうかと、うんざりとした顔で立ち上がる。
カッコーンッ
快打音が響き渡り、悪魔は走りを止めていた。
「どたばたどたばたと! 煩すぎますよ!」
「……痛い」
おたま片手のグレミオが、エプロン姿で出てきた。
……さっきの音は、もしや。
「まったく――ああジョウイ君、生きてます?」
「はーはーぜーぜーは゛ーぁ……」
「だってグレミオ」
「中身が成長なさらないなら、外だけ育ってもウドの大木です」
ぺしっと言い渡したグレミオが背を向けてキッチンへと戻るのを見届けてから、シグールは床に倒れているジョウイを睨みつけた。
「……さて、煩くしなきゃいいって言われたし」
「!!!!」
マクドール家より、悲鳴が絶える事はなかったという。
***
ギャグ……?
やはりジョウイは出ない方が。いいのかな、彼には。