<kiss me kiss>





長椅子に座って裁縫をしていると、隣にくっついて座ってきた子がいた。
唇を綻ばせ、クロスはどうしたの、と言う。
無言で彼は、片手に持っていた本を開く。
けれども、その目は文字をちっとも追っていない事が分かったので、クロスは裁縫を一時中断して裁縫箱の上に置くと、片手をルックの髪へと向けつつ尋ねた。
「どうしたの?」
「……別に」
そう言いながら、うっすらと頬を染めて視線を逸らす。
クロスは髪の中に片手を差し入れて、柔らかく自分の方に引き寄せる。
「ルック」
「ん……」
顎を持ち上げ引き寄せると、目を閉じて口をかすかに開く。
ゆっくりと口付けをしてから離すと、ぷいと赤く染まった顔を逸らした。
「ルック?」
「な、なんでもないっ」
「いや、なんでもないって……」
そんな様子で言われても。
苦笑してクロスは優しくルックの頭を撫でる。

ここ数日は万事こんな調子である。
初めてのキスから、クロスが一人でいると横に必ずルックがやってくる。
別に、キスをせがんでるわけじゃないとは分かっているが、したいものはしたいので素直に本能に従うまでだが、問題はその後の反応だ。
嫌がってるわけじゃない。
だけど何かが、煮え切らない。
「キス、嫌なの?」
「ちがっ……」
慌てて振り返ったルックは、自分の言葉の意味を理解したらしく、また耳まで赤く染めて背を向ける。
本を開くが、本当に形しか取り繕えていない。

クロスは小波のような笑いを噛み殺して、立ち上がった。
「お昼は何にしようか」
「クロ、ス」
 
腕に縋るように手を伸ばして立ち上がったルックは、怪訝な顔をして首をかしげるクロスの前に立つ。
「ルック?」
「目、閉じて」
「え?」
「いいからっ!」
語気強く言われクロスは目を閉じる。
くいっと軽く胸元の服がつかまれ、ルックの体重がやんわりかかる。
支えようと思った半端、唇になにやらあたる感触があった。

「……え?」
思わず驚いて目を開くと、そこにはもうルックの姿はなく。
「……え?」
口を手で押さえて、呟く。
「え? ええっ?」
もしかして今のは。
「あっ、もったいなっ」
薄目開いときゃよかったとかすかに後悔しながら、クロスは周りに誰もいないをいい事に、緩んだ顔でキッチンへと入った。

 

 




***
甘いですか甘いですか甘くないですか甘いですか。