5.kissing





晴れて恋人(?)になったものの。
「ルック」
「……嫌だ」
ぴしゃりと拒絶の言葉を吐いて、ルックは立ち上がる。
クロスは苦笑して、その手を引っ張って引き止める。
「ごめん、でも僕はね、本当にルックとキスしたりとかしたいん」
「生臭くて嫌だ」
「今日のお昼はツナスパゲッティーだったよね?」
本気なのか冗談なのか、真顔でボケをかますクロスにルックは震える拳を握りこむ。

クロスの事は好きだし、側にいたいとは思う。
抱きしめられれば安心するし、額へのキスはくすぐったいけど嬉しい。
だけど、それとこれとは一線を。

「いいから、まあ座んなさい」
ぐいっとクロスに腕を引っ張られ、バランスを崩したルックはクロスへとぶつかるような姿勢で倒れこむ。
しっかりと抱きしめてちゃっかりと膝の上にルックを乗せたクロスは、笑って座らせたルックの首筋に唇を寄せた。
ぴくりと肩を動かしはするが、別段拒絶の意思はない。
「なんで首はよくて口はだめなのー?」
「嫌なものはイヤダっ!」
はーあ、と溜息を吐いたクロスはルックを横に下ろし、立ち上がる。
クロス? とルックに問われて、レックナート様のリクエストがあったからアップルパイでも作ろうかなと笑顔で答えた。
そのまま台所へ入っていってしまったクロスの後姿を見ながら、ルックは俯く。
勝手な事を言っているのは分かっている。クロスがそれに合わせてくれているのも。
「……だって」
呟いた言葉は霧散した。



クロスの焼いたアップルパイをつつきながら、ルックは正面に笑顔で座る彼を見る。
視線が合うと「美味しい?」と聞いてきたので、肯定の意味で首を縦に振っておく。
「ルック、欠片付いてる」
笑って手が伸びてきて、口元をそっとぬぐう。
「……ん」
気恥ずかしくて視線を横に流したルックの唇に、そっとぬぐった人差し指を置いて、クロスは真顔になった。
「クロ――」
「黙って」
「…………」
「あのねルック。僕は待ったんだ。それでね、これからも一応待てるけど」
でもね、と呟いてその深い緑の眼でルックを見つめた。
「どうして嫌なのかは、知りたいな」
「……ゃ、……」
「え?」
顔をそむけてクロスの指から唇を離し、ルックは答える。
「嫌じゃ、ない、けど」
「うん?」
「……は、恥ずかしい、し」
「うん」
かあっと耳まで赤くなったルックの姿に、クロスは相好を崩す。
伸ばしていた手を引っ込めて、立ち上がると座っているルックの前まで来て、手を差し伸べた。
「な、何」
「立って」
無言で立ち上がったルックの頬を右手で掴んで、ほんの僅かに上を向けさせる。
「ちょ――」
「ヤダなんて聞かない」
「ク、」
「好きだよ、ルック」
「っ――!」

ゆっくりと重ねられた唇は、思っていたよりずっと熱く。
舌で歯を割ったクロスは、口腔へまで進める。
びくりと痙攣に似た反応を示したルックの肩を抱いて、深く。

「ふっ――ぁ」
唇をようやく離したクロスに、顔を真赤にしたルックがもたれかかる。
「こし、ぬけ、た」
「嫌じゃなかった?」
「……なかった」
嬉しそうに微笑んで、クロスはルックを強く抱きしめる。
それに返して、ルックは彼の胸に顔を埋めた。

願わくば、この心臓の鼓動の速さに気付かれませんように。
 

 

 



***
甘い4ルク馴れ初め編です。
ギャグで落とさないという事がこんなに大変だとは思いませんでした。

風呂場いっぱいに砂吐いてきます
……。