4.loving
追ってしまう視線を無理矢理本に戻して、ルックは苛立ちを治めるようにかすかな溜息を吐く。
クロスが今、日課となったルックの私室掃除をしている。
……煩いわけではないし、助かるし、丁寧だし、文句はないのだけど。
「……クロス、邪魔」
「いや、僕何も邪魔してないんだけど……」
苦笑して返したクロスを睨んで、ルックは言った。
「視界の邪魔」
「あー、それ傷付くよ」
へらっと笑って言った彼の言葉に、ルックは黙る。
本気ではないのはわかっているのに、言い返せない。
「そーいえばルックのベッドマット最近干してないけど……」
そう言ってクロスが口ごもったのには理由がある。
ここ最近ずっと、ルックは夜になるとクロスの部屋で寝ているからだ。
旅先でのひょんな事での一晩がお気に召したらしく、恐らく起きた時に温かいのが満足なのだろう。
「いい」
「そっか」
じゃあ今日の掃除はお終いかな、と言ってクロスは掃除道具一式を持って部屋を出て行く。
途端に静かになった部屋の中央に座っていたルックは、ぱたんと本を閉じて立ち上がった。
掃除道具を持って自室へ入ったクロスは、腕まくりをしてさあて、と呟きながら自分の部屋を掃除していく。
ぱたぱたとハタキをかけていると、ふと視線を感じたので手を止めて振り返った。
「……何、してるの?」
「別に」
本を片手にベッドの上で読書にいそしんでいる、ついさっき自分を邪魔者扱いした人物。
邪魔と言ったり付いてきたり、一体何がしたいのか正直クロスにもよく分からない。
「そこにいると埃かぶるよ?」
「いい」
「いいって……僕が嫌だよ、自室もどっ」
てれば、と言いかけてクロスは口をつぐんだ。
本を閉じて、青く澄んだ瞳がクロスを見上げている。
そして真面目な顔をして、言う。
「クロス」
「うん」
「……僕のどこがそんなに気にいってるワケ?」
「かわいいし、飽きないし」
「……うそ臭い」
「ひどっ」
苦笑してクロスはルックの隣に腰掛けて、その頭を撫でた。
「僕はルックが好きだよ」
「……絶対?」
「え? うん」
「何年たっても? ココロガワリとかしない?」
「しない自信はあるけど」
そう答えたクロスの服を掴んで、ルックは彼を見上げて言う。
「ホントウ、に?」
うん、と答えてクロスはルックを抱き寄せる。
どうしたのと静かな声で聞かれて、ルックは声を押し殺して泣き出した。
「る、ルック?」
「す――好きとか、そんな、簡単に、言わないで」
途切れ途切れの声は、思いの他よく響く。
クロスはゆっくりとルックの頭を撫でながら、柔らかく先を促した。
「だ、って、僕が」
「うん?」
「信じちゃう、から」
――――え?
思わず目を見張ったクロスの腕の中で、軽くしゃくりをあげたルックが続ける。
今まで心の中に溜めていた思いを、ゆっくりと言葉にしていく。
「信じて……いいよ」
優しい優しいその声と、背中に感じるぬくもりと。
抱きしめてもらえる安心と、全部合わせて涙が落ちる。
「クロス」
「……なあに?」
「……すき」
「……うん、ありがとう」
穏やかな瞳で泣きじゃくるルックを見つめながら、クロスはいつまでもそうしていた。