3.sleeping
レックナートに頼まれた使いをやって、今日は宿に一泊しようかとクロスが宿を取った。
シングル二つの部屋に入って、好きな方とっていいよと言われるまでもなく窓側のベッドを取る。
「夕食は宿の食事でいい?」
「……いい」
ベッドに腰掛けて足をぶらぶらさせて窓の外を眺めていたルックに、クロスは笑んで言った。
「一緒に寝ちゃう?」
「……ばか?」
冷たい視線を向けられて、クロスは苦笑いをした。
つれないなあと呟いてみれば、やっぱり部屋は別々に取るべきだったと思うんだけどと無表情のまま切り返される。
「男二人には狭い」
「ルックは小柄だから平気だと思うけど」
「……煩い」
真持ちは総じて成長しないので、その事を若干気にしていたルックは眉をひそめて言い放つ。
ごめんごめんと言ったクロスが、ドアを開いて尋ねた。
「じゃあ、行こうか?」
「……ん」
立ち上がったルックは窓の外をまた見やる。
冷たい風が窓を叩いていて、そういえばもう冷え込む季節なんだな、と。
夕食を摂って部屋に戻って。
ルックと入れ替りにシャワーを浴びに行ったクロスは、髪を乾かしつつ部屋に入って、既に暗くなっていた部屋の間取りを思い出しつつ、自分のベッドへ足を進める。
ルックの夜は通常は遅めなのだが、今日は何もする事がないので早く寝る事にしたのだろう。
窓から差し込む僅かな明かりも、カーテンが閉めてあるせいで差し込まず、クロスは手探りでベッドまでたどり着いて、布団に手をかけ、止める。
「ルック……?」
僅かに盛り上がった布団の中に、他に入っていそうなものの名前が思いつかない。
ベッド横のランプをつけると、片隅に包まったルックの瞳が見上げていた。
「…………」
「えーっと……あ、寒いの?」
窓際のルックのベッドは冷えるから、クロスの方のベッドに入ったのだろうか。
そう思ってクロスはじゃあ僕があっちでいいのかなと尋ねる。
「…………」
無言でルックは布団に包まったまま背を向ける。
その横には、クロス一人がかろうじて寝られそうなスペースがあった。
「え、じゃあこっちでいい?」
そう言って隣に滑り込んでも、ルックは何も言わない。
くすりとクロスは笑って、ルックの髪に指を滑らせる。
少し湿った髪の毛が、冷えていた。
「ルック、ちゃんと乾かさないと風邪ひくよ?」
「…………」
「るーっく」
返事の無い相手に、クロスはぺしぺしと後頭部を叩く。
それでも返答がないので、少しのぞいている肩に布団をかけなおし、ランプを消してお休みと言って目をつぶった。
……けれども、隣にルックがいると思うと少しだけ落ち着かなくて、とか思いつつ寝てしまったわけだったのだが。
(あれ?)
意識がふと覚醒すると、小鳥のさえずりが聞こえる。
腕に何かが縋りつくような感触。
首の辺りにあたるのは自分とは違う質の髪。
うっすらと目を開いて、窓から差し込む朝日の中、隣へ視線を向けてみれば。
「……もぉ、かわいいなぁ」
クロスの腕に抱きつくようにして肩に頭を埋め、すやすやと眠っているルックの姿があった。
照れたように笑って、クロスはその頭をそっと撫でて、もう一度目を瞑った。