2.touching





いきなり後ろから腕を回されて、ルックは鬱陶しそうにその腕を振り払う。
「邪魔」
「ねえルック、町行かない? 買物しよ?」
「めんどい」
「古本屋市やってるよ?」
「なんでそれを早く言わないの」
立ち上がったルックにクロスは嬉しそうに微笑む。
どうして笑っているのかわからなくて、ルックは眉をひそめた。
「何が楽しいの」
「え? ルックが一緒に買物行ってくれるのが嬉しい」
「……わけわかんない」
そう言って背を向けるルックを見てクロスは目を細める。
最初は、会話もろくにしてくれなかったのに。
今は、触っても怒らない。
まるで気まぐれな猫を慣らしているようだと、自分の発想にクロスはまた笑う。
「最初に野菜買って、あと小麦粉と砂糖も切らしてる」
テレポートは島の外に出るくらいでいいよ、と言われてルックは返答をせずに呪文を唱えた。


 

 


「えーっと、後は砂糖、だね」
「……早く市に行きたい」
「ごめんごめん、もう行って来ていいよ」
クロスの横を歩きつつ、ぼそり呟いたルックに苦笑して、クロスは町の反対側を指差す。
「あっちの端でやってるって」
「わかった」
そう言って歩いていこうとしたルックは、ある事に気付いて足をとめる。
クロスは今、右手に小麦粉の袋、左手に野菜の入った袋を持っている。
これで砂糖を買って、どこに持つつもりなんだろう?
「ルック?」
行かないの? と不思議そうな顔を向けられて、ルックはクロスへ聞く。
「頭に砂糖乗せれるの?」
「え? ……ああ、平気だよ右手に砂糖と小麦粉くらい持てるし」
そうは言っても、今持っている小麦粉は小さな袋ではない。
ルックだったら、両手で抱えるのが丁度、といったところだろう。
「迎えに行ってあげるから、好きなだけ物色しておいで」
ね、といわれてルックは右手を差し出した。
「何? あ、お金?」
「……野菜」

「え?」

「だから、野菜」
「……持って、くれるの?」
はいともいいえとも返さずに、だけど手は動かさないで、ルックはクロスに無言で促す。
破顔したクロスが、左手の荷物を差し出した。
「ありがとう」
ついでといわんばかりに、その手が自然にルックの頭を撫でる。
良い子良い子と子供扱いされている気がしてルックは眉をしかめたが、身体を引く事はしなかった。
それをするとほんの一瞬だけ、クロスが哀しげな顔をする。
「……夕暮れまで見るから」
内心の葛藤を打ち消すように呟けば、手をどかしたクロスは微笑む。
「わかった、人ごみに気をつけてね」
ひらひらと手を振って歩いて行くクロスを見送って、ルックは手にした野菜の袋の持ち手を握り締める。

こんなの持っていたら、本を物色するのに邪魔になるのはわかってたのに。
クロスが小麦粉も砂糖も野菜も全部きちんと持てることもわかっていたのに。
あそこで足をとめて、無駄な事を言わなければ、今頃は本に目を通していれたのかもしれないのに。
本よりクロスの方が気にかかった理由は、まだルックには分からない。