<出刃亀>
「それ」をするのは互いの気分が乗った時。
大抵クロスが誘ってきて(というか九割九分)ルックは流される形で……というのが通常だ。
今回も例に漏れず、夜の戯れは始まった。
濡れた指を入れられて、息を詰める。
例え何度やろうとも女ではないのだから多少痛みは薄れても、慣れる事はない。
「大丈夫?」
尋ねられ、無言でただ頷く。それと共に違和感が増大した。
できるだけゆっくり動かしているのは分かっているのだが、それでも気持ち悪さが勝って、腕に縋りつくように手を伸ばす。
すると、指を絡められてシーツに押し付けられるような形にされた。
段々と動きが早まってきて、逸る息を抑えながらルックは自分に覆いかぶさっているクロスを見る。
生理的な涙で僅かに揺らぐ視界の中、海の色を溶かしたような瞳とかち合った。
ふとそれが細められ、目じりに口付けを落とされる。
闇に浮かぶ海の色。
実際に見た事はないけれど、こんな色なのかと想像する。
見に行きたいと言ったら連れて行ってくれるだろうか。
ぼーっとしてきた意識の中でそんな事を考える。
こんな状態だから変な事が思い浮かぶんだと、深く息を吐いた。
「ルック?意識ある?」
「……あ、うん」
薄く目を開けて応えると、くすくすと笑い声が降ってきた。
「挿れるよ?」
耳元で囁かれて、背筋にぞくりとしたものが走る。
恥ずかしさよりもこの後にくる快感を知ってしまっている体は、半ば無意識の内に首に手を回してクロスの体を引き寄せていた。
その様子に笑みを深くして、クロスは腰を進めようと―――――
ガチャリ
「あ」
「…………」
「…………」
「…………」
開けられた扉の外に立っていたのは、ドアノブに手をかけたままのシグールと、目を逸らすタイミングを逃して凍ってしまったテッドだった。
そりゃドアを開けたら友人達がコトに及んでいるなんぞ予想なんてしていないだろう。
……ノックくらいしようよ。
数秒なのか数分なのか、本人達にとっては非常に長く、かつ重い沈黙が流れ。
「えーっと……閉めてくれるかな?」
微妙な笑顔と共に向けられたクロスの言葉に、我に返ったテッドがシグールを勢いよく後ろに引いた。
「お邪魔しました!!」
言うが早いかバタンと思い切り閉じられたドアを見て、二人はしばし沈黙する。
そこでようやく、ルックの鈍くなっていた思考が事態に追いついた。
目を一杯に開いて閉められたドアを凝視する顔が、みるみる赤くなっていく。
「い、ちょ、え……あ!?」
言葉にならない声と共に視線を向けるルックにクロスは苦笑して、頭の下に手を入れる。
「大丈夫だって、結構暗かったからそんなに見えてないって」
「そういう問題じゃない!!」
明日どんな顔を合わせればいいんだと頭すら抱えそうな様子に、今更だよなとクロスは笑みを深くする。
もっとも認識されているのと実際に見られるのは違うだろうが。
「さて、じゃあ続きやりますか」
「え、……なにんぅっ」
黙ってとばかりに深く口付けられ、咥内を舌でまさぐられる。
それだけで意識が半分どこかへ行ってしまったような感じがして、先刻の二人の事は次の瞬間には完全に意識から消えていた。
***
出刃亀とはまさにこのこと。
シグール「……ねえ」
テッド「見なかったことにしろ。自分のためにもあいつらのために」
シグール「あれってさ、気持ちいいの?」
テッド「……知らん」
シグール「…………」
テッド「(嫌な予感が)」
シグール「僕らもやってみる?」
テッド「Σ(゜Д゜|||ノ)ノ」
シグール「テッド?」
テッド「丁重にお断りシマス」