――クロス、どうして
……





<sting>





……この……根性悪……

ぐったりとしたテッドが、顔を手の中に埋めて呟く。
よりによってこいつかよ、と呟いているみたいだけれど、それはお生憎様だ。
べつに僕だって、聞きたくて聞いたわけじゃない。

「軍主って、クロスのこと」
……そーだよ」
白を切っても仕方ないと判断したのか、顔色悪いままテッドが答える。
「何があったの」

僕から視線を逸らした彼の横顔が語る内容は明白。
それはあの、シグルドと言うクロスの恋人の事。
……元、恋人。

……アイツが、怪我して、でもクロスは、顔色一つ変えずに、指揮をとって」
ぽつぽつと言葉を紡いで、テッドは顔をゆがめた。
「酷い出血で、ハーヴェイが真っ青になるくらいに――クロスを庇ったんだ、それで目の前で倒れて――なのに、顔色一つ変えずに、指示を」


戦闘が終わってからも、船内の様子を見回っていたクロスにテッドが耐えかねて言ったのだと。
それにクロスは、無言で首を振ったのだと。
……そう、話した。

クロスは、全然シグルドって人のことは話さなくて。
記録をいくら洗っても、百年以上前の人間の事なんてどこにもなくて。
「なんで」
僕が倒れても、クロスはそうやって平然としてられるのか。
もし、倒れたのがクロスだったら、僕を庇って倒れたら――?

「どうして、どうして平気でっ」
……俺もそう、思ったよ」
沈んだ声でテッドが答えた。
「そう尋ねたよ、後で何度も。納得いかなかったから」

そうしたらな、と呟いてテッドは頭をがしがし掻いた。

「言ったんだ、『これが僕の役目だから』」
それはきっと、あの甘えたが自分に課した鎖だ。 
そうでもしないと、相手を振り回してしまうから、精一杯の制御。

そんなにあんたが気を遣う相手だったの。
ならどうして一緒にいたの、どうして――どうして恋人なんかだったの。
僕が倒れたらあんたはどうするの――僕は、そばにいてほしい、のに。


「そう、なんだ」


色々言いたい事を全て押し殺した一言は、ぞっとするほど低く響いた。
それはテッドも同じに感じたらしく、顔を上げて怪訝な目で僕を見る。

「ルッ、ク?」



「かってに、やってれば」














僕の知らないクロスを語るテッドなんて、キライ。


僕の知らないクロスなんて、イラナイ。

 

 



***
……名付けてテッド君寝言騒動シリーズ(待
るっくんの微妙な心境を探っていくのは楽しいです……。