<sigh>





――――― い や だ い か な い で


「……耳を塞いで出て行くという選択肢もあったんだがな」
「……すみません」

 一番聞かれたくない寝言を聞いた上に微笑した男を睨みつけて、テッドはベッドから下りた。
「クロス様が呼んでこいというものですから」
「なんだ、また戦闘か」
「いえ、ジャガイモの芽取りを」
「……っざけるな」

 叩きつけるように吐いて上着に腕を通す仲間を、シグルドは笑顔で見守る。
 テッド――その身に宿すのは生と死を司る紋章、ソウルイーター。
 年齢は不詳、相当生きているようであるが……人としては、なんというか、弄り甲斐がある。
「俺を何だと思ってるんだ」
 ブツブツ言いながらもしっかり出かける準備をするのだから、クロスが言うとおり「お人よしの世話好き」である。

「テッドさん」
「……んだよ」
「夢、ですか」
「余計なお世話だ」

 目の前に翻る緑の布。
 赤い服を着た少年は、ゆっくり言い含めて、背を向けた。
 いつかまた会えるから。
 その「いつか」は、まだ来ない。

「辛そうな顔でしたよ」
「……だから」
「いえ、差し出がましい真似でしたね」


 笑ったシグルドが扉に手をかけると、ベッドにぽすっと腰かけたテッドが呟いた。


「……いつか会うやつなんだ」
「そうですか――君はその人に会うために、生きているんですね」
「そうだよ」
 いつか、あの少年の手を取るために。
 彼の顔を、もう一度しっかりと見るために。
「少しだけ、分かりますよ」

 俺もそうだったのかもしれませんから。
 そう言って笑って出て行ったシグルドを、テッドはしばしば唖然として見送っていた。




――――― い や だ い か な い で









 求めた人の手をとる事ができたのは百五十年も後。

 『俺もそうだったのかもしれませんから』

 彼がそう言ったことは、いまだ誰にも言えていない。

 

 

 

 

 



***
テッドとシグルド。
ぶっちゃけ微妙な組み合わせですっていうかテッドが入ると誰とでも会話がまとも
……。