<Why you wear?>
窓辺に腰掛けて、吹き込んでくる風を受け、ぼんやりと外を見て、まるでその風情は昔に思いをはせる英雄――その実は今日の悪戯を考える坊ちゃん――に、毎度の如くグレミオの料理目当てに転がり込んでいたジョウイは、常々不思議に思っていた疑問を投げかけた。
「シグール……さん」
「は、何?」
ジョウイがシグールに一応「さん」を付けるのは初対面で色々あったからなのだが、最近取れがちになるのは周知のところだ。
元々尊敬がこれっぽちもないから仕方がないのかもしれないが。
「なんでそのバンダナ、尻尾のところが二色――というかそもそもどうしてバンダナなんだ?」
ちなみに敬語は最初の半年しか続かなかった事を、ここに記しておく。
「ああ、これ?」
風にヒラヒラ舞っていたバンダナの先を持ち上げて、シグールは笑う。
「僕小さい頃から活発でね、ちょこまか動き回るからグレミオが人ごみにまぎれても見つかるようにって」
なるほど、と納得したジョウイに、シグールは続けた。
「紫の先はね……昔染めたんだよ」
「なんで」
「気分」
にっこり微笑んで話題終了と言わんばかりに言い切ったシグールだったが、ふと表情を変えて逆に尋ねてきた。
「セノの金環はなんなんだい?」
「ナナミが買ってきていつのまにかつけてた」
「……そうか」
ナナミの言動にはシグールにもジョウイにもかなり「謎」であったので、そこで会話が終了、すると思いきや。
「やな面子だね」
「ルック」
さも当然の如く訪れていたルックが、偶々そこへ歩いてきてしまったのが運のつき。
ちなみのこの三者、それぞれに相方がいるのだが、引き離してトリオ作らせるには最悪の面子である。
だが逆を言えば、この三人の相方がトリオを作るとパパとママと子供の家族トリオというなんとも平和な図になる事に触れておく。
しかしこちらのトリオは、まさしく問題児トリオというに相応しかった。
「ルック、君のその出で立ちはなんか確固たる理由があるわけ?」
「……どうだっていいだろ。あんたこそそのずるずる長い髪は何」
「これは」
答えかけたジョウイの言葉を遮って、シグールが述べる。
「大方セノかナナミが「ジョウイの髪って綺麗だねー」とでも言ったんだろ」
「…………」
図星の指摘に黙り込んだジョウイは、しばらくしてから顔を上げた。
彼も最近はずいぶんとたくましくなっている。
「いや、やっぱりその二色のバンダナは気にな」
「……セノの服は誰のセレクションだい?」
にっこり微笑んだシグールがジョウイの言葉をぶった切る。
「そりゃ僕ですよ」
愛するセノの話題を再び振られ、そちらへころっと話題転換したジョウイが、答える。
……シグールの笑顔に胡散臭いものを感じたルックは、ジョウイの背後に佇むセノとテッドの姿に気付いた。
が、面白そうなので黙っておく。
「なんであんなずるずるした服なわけ?」
「そりゃすぐに脱がせられるからにきま――」
ガスッ
ベシッ
メキョッ
「変なものを見せてごめんなさいシグールさん、テッドさん、ルック。すぐに回収しますね」
「うん、よろしく」
ジョウイを素手で殴り倒したセノに、笑顔でシグールは手を振る。
……例えジョウイが成長しようとも、周囲も同じ速度で成長しているのだから無意味である。
「じゃあ、失礼します」
ずりずりずーり。
ジョウイを引っ張っていったセノを見送ったテッドが、ああと言ってルックを振り返る。
「クロスが呼んでたぞ」
「何?」
「さあ? 行った方がいいんじゃないか」
わかった、と答えてルックが出て行くと、テッドはにやりと笑ってシグールのツートンカラーのバンダナを弄った。
「これ、赤く染めたかったんだろ?」
「……そうだよ」
「なんで?」
聞くわけ? とテッドをちょっと睨んで、シグールは答えた。
「だって、テッドが赤好きだって」
「……お前……アホか」
「いーじゃん、別に。ってゆーか、クロスのバンダナが赤いのに僕にも赤いバンダナつけさせようとしたんだ」
「……いや、そういうわけじゃないけど」
「クロスの赤いバンダナの方が僕の緑よりいいって?」
「……そうも言ってないって、ただ赤が好きってだけで」
「テッドは赤い服着ないくせに」
「あー……まー……似合わないし?」
むくれたシグールにテッドは浅く笑う。
こういう所は昔通りなのだが――……。
「俺はてっきりお前が赤が好きかと、服赤いの多かったし」
「……それは、僕の趣味じゃない」
「グレミオさん?」
「グレミオは緑、だからバンダナが緑」
「……え、じゃあテオ様?」
こっくり頷いて、シグールは視線を伏せた。
「先だけちょっと、赤くしようと思ったら地色が濃すぎて紫になったんだけど、グレミオが似合うって言うからそのままにしてた」
「ら、定着したと……なるほど」
納得してテッドはぽんぽんとシグールの頭を叩いた。
「で、お前は結局何色がよかったわけ?」
「僕は何色でも似合う」
……ああ、子供の成長って早くて残酷だなぁと。
テッドは天を仰いで溜息を吐いた。
***
唐突に脇話。
シグールのバンダナの謎を解き明かす前に誰か構造の謎を明かして……。
坊ちゃんからクロスへの感情はこんな事も含めて極めて微妙です。