<GAME>
「なっとくいかない」
無表情でそう吐き出したのはシグールでもジョウイでもなく――セノ、だった。
「どうして僕ばっかり負けてるの」
ゲームをしていたテッドとシグールとジョウイは顔を見合わせる。
本日、マクドール家に遊びに、ではなく今日はセノの方にシグール達がきていた。
何でもグレミオ曰く、部屋を一斉に掃除したいらしく、「埃をかぶるといけませんからセノ君たちのお家にでも避難してください」だそうだ。
邪魔になるので追い出されたともいう。
「僕ばっかりこれで十連敗」
淡々と紡ぐセノの言葉は静かだ。
「納得いかない」
「じゃ、じゃあ他のゲームにするか?」
カードを切るテッドが提案すると、ふるふると頭を振った。
「ヤダ」
「セノ、カードは運もあるから一回他のゲームで仕切りなおすとか……」
「ヤダ」
「セノ、おやつにしようよ」
「ヤダ」
三人の提案をことごとく蹴り、セノはテッドに向って手を差し出した。
「僕が配ります」
「あー……うん、どうぞ」
慣れない手つきで一枚一枚配っていくセノを見ながら、シグールは自分のカードを取り上げる。
……そろそろ、疲れてきたのだが。
この、ババ抜きに。
セノの運はけっして悪くない。むしろいい。
もっともジョウイ・テッド・シグールの三名も悪くはないが。
なのになんでセノが負けるかと言うと、そこはひとえにカードの運……。
別に他三名も勝とうと思って勝っているわけではないからタチが悪い。
「…………」
スタート時から既にシグールの持ち札は残るところ三枚となっていた。
対してジョウイは十はありそうだが、ババ抜きというのは総じて数が多い方が早くあがってしまうものである。
……順に、カードを取って捨てる、という淡々とした作業を繰り返す。
「…………」
十一度目のジョーカーを机の上にそっと置いて、セノは黙り込んだ。
もう、誰も何も言う事はできず、カードを集めるテッドの横顔も硬い。
十一連敗もしたら、いいかげん意地で引けなくなるのだろうか。
「そ、そろそろ止めるか」
「……もう一回します」
「いや、あのねセノ」
「次は、七並べで」
やっとババ抜きから解放される。
そんな安堵の溜息を吐いて、三人は顔を見合わせた。
が、それは甘い。
「……パス三」
「あれ、シグールさんまたパスですか?」
「……うん」
「パス三」
「テッドさんもパスですか?」
「……ああ」
「…………」
「ジョウイ、もうパス三回やったよ?」
「知ってる」
「じゃあバンだね、アウトだね、負けだね」
「……わかってる」
「じゃあこれで僕の勝ちっ」
七並べ第八回戦。
ブッちぎりで毎度毎度勝つセノ。
……しかも毎度毎度、六とか八とかのカードを止めて。
「……テッド、僕が心が狭いんだろうか、勝ちたくなってきた」
「……今でも十分本気じゃなかったのかシグール」
セノとジョウイには聞こえないように小声で会話する二名。
カードを切るセノはにこにこ笑顔だ。
無論、三名とも手は抜いてはいない、そんなことをしたらセノが怒る。
まあ、これで彼が十二連勝してくれれば機嫌も直るだろうから、いいか。
三人はそう踏んで溜息を吐いた。
それは、十一回目の勝負終了後直後に起こった。
現在、セノが十一連勝。
あと一回勝てば、おそらくこのカード地獄から開放される。
「あれー? 何してるの? あたしもやりたい!」
買い物に行ってきたらしきセノの姉、ナナミが笑顔で寄ってきた。
「七並べなんだけど」
「やるやるー」
笑顔で言ったナナミへセノがカードを配り、第十二回目の七並べが始まった。
「…………」
「…………」
「…………」
痛い沈黙の落ちる中、即行でアウトになったテッドは他4名の札数を見ていて、思わず目をむく。
ナナミ、残り手札あと一枚。
「はーいっ、やったーっ、かったー!」
笑顔出立ち上がった彼女は可愛いのだが。
だが。
そもそも始めに配られた枚数の関係で、ナナミより一枚多く、そのせいで負けたセノを、全員がこっそりと覗う。
彼は、笑顔で自分のカードを机に伏せて、言った。
「すごいやナナミ」
「えっへへー」
「ジョウイも、シグールさんにテッドさんも、お茶飲みませんか、おやつにしましょう」
「……ああ」
「……そうだな」
「……僕も手伝うよ」
者それぞれの反応を返して、三人は卓上に広がったカードを見る。
なんともいえない沈黙が落ちた。
***
あ、オチがない(待