<Vive memor mortis>





明るい月夜、テッドは屋根の上で寝転がっていた。
シグールは昼間大分(ジョウイを弄って)遊んだので、おそらく疲れて夢の中、のはずだ。

「何してるんですか」
声を掛けられた事に少し驚いて、テッドが首を曲げてみれば、そこには屋根の上に登ってくるジョウイの姿があった。
「月光浴、だな」
「そうですか」
何もそれ以上は言わず、ジョウイはテッドの隣に座る。

背中で一つに縛った金の髪が、夜風に吹かれて後ろへ流れた。



落ちた沈黙は居心地の悪いものではなかったが、ジョウイが口を開いて壊れる。
「テッドさん」
「ん?」
「貴方は――どれだけ生きてきたんですか?」

真の紋章持ち。
その寿命は、外見から推し量る事は到底できない。
現にクロスは、ジョウイが調べたところによると、百五十年前に存在していた人物。

「俺は――まあざっと三百年だなあ」
歴史の彼方の時代を提示されて、ジョウイは黙った。
「どうしてそんなことを聞く?」

話を振られて、のろのろと口を開いた。
「僕たちは、基本的に、死にません」
「だな」
「でも、グレミオさんとか、ナナミとか」
大切な人たちはいつか死んでいく。
「それを僕は、耐えられるでしょうか」
忘れられる、でしょうか。
その痛みを、喪失感を。


ジョウイのその言葉に、テッドは浅く笑う。
「それ、クロスに絶対言うなよ」
「え?」
「あいつにそんなことを言うと鉄拳が飛ぶぞ」
「……はあ」
「別に、忘れる必要はないさ」

月を振り仰いで、テッドは零す。
「いつまでも痛むじゅくじゅくした傷跡を抱えて生きればいい」

俺も、あいつも、シグールも。
塞がる事はない、塞ごうとは思わない。その傷跡が与えてくれる痛みは。
「生きている証だ」
醜くても、汚くても、それでいい。
それが古傷になる事はない。

「俺達は死なない、だから、忘れてはいけない」
人を失う痛み。
その哀しみ。
「忘れては、いけない……」
「耐える必要もないさ。泣いて喚いて自暴自棄になって、それでも俺達は立ち直る」
その大切な人を覚えている限り。

「忘れてしまえば、古傷にしてしまえば、そこまでなんだよ」
そう言ってテッドは、ジョウイと視線を合わせて微笑んだ。
「さて――そろそろ寝るか」
「テッドさん」
「なんだ」
「その、クロスさん、は、その」
どうして、忘れたいなどと言うと、怒られるのか。
「……クロスは、恋人がいたんだよ。きっとあいつは忘れていないし忘れたくもないだろう」
あの過酷な戦いの中、彼を支えてくれた大切な存在。
きっと今でも、彼の心のどこかに息づいている。

「だからお前が、忘れれるかなんて言ったら、まず怒る」
そうですか、と呟いて、ジョウイはありがとうございますと礼を言った。





 

 



立ち上がったテッドは、シグールと共有している寝室へ戻ると、そこには明かりをつけずにベッドの上で起き上がっている彼の姿があった。
「――どうした」
「……別に」
なんでもない、と言ってシグールはまた上半身を横たえる。
「……テオ様の夢でも見たか」
「…………」
無言だったが頷いたシグールの頭をなでて、テッドは自分もベッドに横たわった。
「ソウルイーターが見せてるのかな」
「違うね」
きっぱりと言い切って、テッドは目を閉じた。
「それはお前の心が懐かしんでるんだ」
傷跡は、塞がらない方がいい。


最期すら、思い出せなくなるくらいなら。


 

 

 




***
タイトル「死を忘れずに生きよ」
BGMは 幻想水滸伝2 ゲームサントラより「回想」

テッド&ジョウイだと静かですね(苦笑
(ルックとシグールはきっとやかましい)