<戯れ>
「はいセノ、あーん」
満面の笑みを浮かべたジョウイがフォークの先に突き刺して差し出す苺を、ぱくりとセノが食べる。
「じゃあジョウイも、あーん」
にこにこ笑顔でセノが差し出したフォークの先にあるのは。
あるのは。
「……セノ君、誰がこれをデザートに分類したのかな……?」
冷や汗と共にそう問うが、結果は決まっていた。
「グレミオさん」
(恨みますよ……)
セノのフォークの先についていたのは、温かなオレンジ色をした砂糖漬けの。
ニンジン。
「そ、それはセノが食べるといいよv」
「やだなあ、僕はこんなことしなくてもニンジン生で食べれるもん」
「……僕はあまりほしくないかなあ……」
「ダメだよジョウイ好き嫌いは」
「…………」
黙りこくったジョウイに、溜息を吐いてごそっと顔から笑顔をそぎ落としたセノは無表情で呟いた。
「失敗かあ」
そう言って椅子から降りてとたとたと行ってしまった彼を呼び止めることすらできず、ジョウイは呆然としてそれを見送る。
楽しい楽しいおやつタイム……が、実はジョウイにニンジンを食べさせる作戦だったようだ。
無言で机に突っ伏すジョウイに、正面に先ほどからずっと腰掛けて一部始終を見ていたクロスが声をかけた。
「ねえ、君とセノ君って最初はもちろん合意だよね?」
「……は、ぁっ!?」
言葉を噛み砕くのに時間を有したジョウイが、がばりと顔を上げて、焦った声を出した。
「いや、君の感じからして理性と良心が本能に打ち勝つんだろうなと」
「な、な、なっ、何言ってるんですか!」
「だって、シグールには聞けないでしょ、テッドとシグールは「親友」だし」
ソウルイーターに喰われたくもないしね?
小首を傾げ笑顔でそう言ってくれたクロスだが、彼がソウルイーターを本気で恐れているとはちょっと思えなかったので、可愛らしい演技は無視することにする。
「やっぱり最初は合意じゃないと、あとあと尾を引くかなーと……」
「どういう意味かわかりかねるんですが」
顔を引きつらせて返せば、さも当然と言いたげに見返してくる。
「だって、君とセノ君は肉体関係あるだろう? どうやってあの精錬潔癖な彼を口説き落としたのか知らないけど」
「…………」
天を仰いだジョウイは呟いた。
神様、ここに堕天使がいます。
(ちなみに天使は僕の愛しのセノで悪魔は某英雄です)
「ねえ、やっぱり合意じゃなきゃまずいよねー……」
「……相手はどんな女性ですか」
「は?」
ぽかんと口をあけて、クロスはジョウイを見返す。
「なんで僕が女性の落とし方を君に聞くの?」
「…………」
じゃあ。
もしかして。
「彼は限りなく女の子に見えるかもしれないけど男だよ?」
ルックか。
ルックなのか。
それでいいのか、ルック。
(お前は僕がアドバイスをしても恨まないか、ルック……)
聞くまでもない、ばれたら切り刻まれる。
「僕攻めになるのは初めてだし」
ガンッ
ジョウイの形のいい額がテーブルと弾性衝突を起こし、大量の運動エネルギーが音エネルギーと反発力となって――まあ要するにテーブルに頭をぶつけた。
「なん、で、す、って?」
「だから、僕は攻めに」
「ああああっ、いいですっ、いいですもうけっこうですっ!」
一瞬幻聴ではないかと期待したが、どうやら現実だったらしい。
「えーっと……そういう事は、シグールさんがダメならテッドさんに聞けば
いいのでは」
「あ」
そっかー、と一旦納得してくれたクロスだったが、後ろから現れた苦い表情を浮かべたテッドに小突かれる。
「聞くな、聞いたら喰ってやる」
「だってさ、ジョウイ君」
「……なるようになりますよ」
「そっかーなるようにねえ……」
(ルック相手にか?)
テッドは内心そう思ったが、突っ込むのはやめておいた。
***
……ジョウ主って、肉体関係、あるの、かな。
(ないってことはないと思うの、ジョウイの理性の限界が(そういう仲だと前提))