久しぶりに会った彼の人は。
腕も細くて、首も細くて。
まるで握ったら折れそうだった。

ロッドを握る手も、華奢で。
肩も細く、胸も薄くて。
本当に少女と見間違えるほどに。


初めてその手をつかんだ時は、本当に大きく見えたのに。
背も、空の半分を隠してしまうほどに大きくて。
その言葉は、まるで天から降りる、神の言葉。

ルックの背に並んだのはいつだろう。
クロスの背を追い越したのはいつだろう。
両手を伸ばしても届かなかったその顔は、今は腕を真直ぐ伸ばせば届く位置にある。
幼いころはあんなに巨大に見えた彼は。

泣いていると抱きしめてくれて。
不機嫌だとたまにあやしてくれた。
退屈そうにしていると本を読み聞かせて。
季節の変わり目には手を引いて外へ連れ出して。

外とは違う塔の中で、ゆるゆると流れる時間が好きだった。
今も当時も、外に焦がれた事はない。
あの穏やかな時間の中に、ずっといるのも悪くないなと。
心の底ではそう思っていた。

ぐんぐん背が伸びても、共に住む三人は変わらない。
不老であると、変わらないのだと、理解はしていたけれど。
いきなり背が伸びだして、帰省の度に視点が変わる。
ルックの旋毛が右巻きだとか、そんな事が分かって驚いたのはいつだろう。
ずっと大きく見えていた人たちが、ある日突然自分より小さくなっていた。
――変わっていくのは自分だけ。
あの人たちがいる心地よい時の中に混じれていない。
部外者だ、と自覚した。

外は違った。
同じ速度で変化していく。
子供が大人に、大人が壮年に。
壮年が老人に、その速度は等しい。

緩やかではあっても人は変わり、自分も変わる。
けれど彼らは、変わらない。

その事から目を背けたくて、無意識に心の底に封じていた。
七年ぶりにあった育て親は、二十年前と何も変わらない。
その緑の目も、髪の色も、少し高い声だって。

幼い頃、あんなに絶対の存在だと思っていた彼は、あんなにも。
あんなにも、細くて弱弱しくて、儚げだっただろうか。
気に入らない事があると噛み付いていた自分をあしらっていた彼は。
あんなにも、小さかっただろうか。

記憶にある育て親の姿は大きい。
大きくて暖かくて、リーヤ自分が飢えていた事すら知らなかったものを与えてくれた。
あの時引いてくれた手のぬくもりは、今だって思い出せるのに。
腕が痛いくらいの角度で引かれていたのに。
今は――





穏やかなノックの音でリーヤは堂々巡りの思考から抜け出した。
誰、と言うまでもなく扉が開く。

「……ルック」
何しにきたんだよとぼやくと、無表情のまま首を傾げた。
「夢は、もう平気?」
「……夢?」
「――ううん、平気ならいいんだ。気になっただけだよ」
かすかに微笑んで、背を向けたルックの手首を、リーヤは掴む。
「何?」
「っ……べ、つに。わりぃ、なんとなく」
「リーヤがそう言う時は、怖い時か寂しい時だね」

勝ち誇ったような笑みを浮かべて、ルックはベッドに座るリーヤの頭を撫でた。
「変わらないね」
「……変わった。背も、伸びた」
「中身が育ってなきゃ同じだよ」
幼い頃されたのと同じように。
ルックの手がリーヤの頭を撫でる。
「……ルック」
「何」
「……変わんねーのな」
「まさか」

「……俺は変わるけど、ルックやクロスや、レックナート様や皆は」
変わらない。
変われない。
それは呪いなのかもしれないけれど。
「俺は、一人だけ」

「……リーヤ」


それきり黙ってしまった養い子が眠るまで、ルックはずっとそばにいた。
 

 

 



***
……あははははorz