ただ、降ってくるそれを見上げていた

毎年のことだったけれど





<White as Snow>





「坊ちゃん?」
「おはよう、グレミオ」
早いね、と微笑んだ主に慌てて駆け寄って、グレミオは自分のマントをかぶせる。
「どうしてこんな……お風邪を召しますよ」
「うん」
「……坊ちゃん、大丈夫ですか?」
心の機微に聡い彼に曖昧な笑みを見せて、シグールは平気だよと呟く。
「今年の雪は、早いなと思って」
「そうですね」

シグールの髪と肩に積もった雪を払いのけながらグレミオは同意を返す。
「ねえグレミオ」
「はい」
「雪合戦、したいね」
「…………」
降ってくる雪を見上げ呟やいた主に、グレミオは一瞬泣きそうな顔をする。
ほんの二年前までは、毎年のようにグレミオやクレオ、パーンやアレンにグレンシールまで交えて盛大に雪合戦大会を行っていた。
そこにテッドが加わって、ますます白熱していたのに。
「――二人じゃ無理かな」

シグールはグレミオを見上げて、困ったように微笑む。
「ごめんグレミオ」
「……坊ちゃん……」
「大丈夫だよ、雪合戦なんて、する歳でもないしね」
無理して笑う彼を抱き寄せて、グレミオはやわらかく背中を撫でる。
「――坊ちゃん」
「うん?」
「しましょうか、雪合戦……」
「……いいよ」

ゆっくりとやわらかく、それでも確実にグレミオを離してシグールは積もってきた雪を蹴る。
ふわり浮いてまた地面に落ちたそれをぼうと見ながら、いいよ、ともう一度繰り返した。
「僕は」

僕は

「雪合戦が好きだったわけじゃなくてね」


いつもは真面目な顔をしているアレンやグレンシール。
生真面目な顔して突っ走るパーンをいさめるクレオ。
ニコニコ笑ってばっかりのグレミオ。
そして――親友の、テッド。


「雪合戦をしてくれる、皆が好きだったんだ」


過去形で語られたその言葉は。
どんな意味を含んでいたのか。

「だから、雪合戦は……」
そう言いかけたシグールのお腹の辺りに、ぽんと軽い音を立てて雪玉が当たった。
「ふふ、坊ちゃん避け損ねましたね」
笑ってグレミオはもう一つの玉を軽く手の内で投げてみせる。
「もう一発行きますよ」
「えっ」
ひゅんと手首のスナップのみで投げられたそれを反射的にかわして、シグールはばっと身をかがめると掬い取った雪を玉にする。

「えいっ」
応酬として投げたそれを避けて、グレミオはいつの間に握っていたのか、また別の玉を投げてきた。
「うわっ」
「ほら、どんどんいきますよ」
「えっ、グレミオずるい!」
笑いながら新雪の上を転がって、シグールが応酬する。
キレのいい玉を時にかわし時に受け止めながら、グレミオは器用にシグールの死角へとどんどん玉を投げてくる。

「グレミオ、そういえば昔から、うまかった、よねっ」
「坊ちゃんの弱点はお見通しですよ」
笑って容赦のない攻撃をしてくるのを本気で避けながら、シグールはくすくすと笑いながらまた新たに玉を作った。

手袋を通して雪玉を溶かしそうなほどに、熱い。
上る白い息も、火照る顔も、気にならなくて。
「えいっ」
「うわっ」
シグールの投げた玉が顔面にあたり、グレミオは叫んでひっくり返る。
「あははー。グレミオ真っ白ー」
「坊ちゃん、酷いですよ……」
非難めいたことを言いながら、笑って上半身を起こしたグレミオに、正面からぱふっとシグールが抱きついた。
「坊ちゃん?」
「……グレミオ、ありがと」
「はい、どういたしまして」

雪にまみれた彼の服をはたきながら、グレミオはやさしい笑顔で答えた。



 

 

 




***
なんとなく。
……グレ坊?と思わないこともないほのぼのに。