<吸血鬼へ>
各々が武器を持ち、緊迫した空気で階段を昇る。
昇りきるとより一層大きく響いてくる、パイプオルガンの荘厳な響き。
彼らの正面に、無防備に背を向けて余裕を見せつけているネクロードは、そのオルガンを弾き鳴らしながら口元を歪めて笑っている。
彼の横には真っ青になったテンガアールの姿があり、こんな状況で笑っていられるのはまさにネクロードのみ……
「あははははははははははは!!!!」
いきなり響いた笑い声に、ネクロードは手を止め振り返る。
笑っていたのは、テンガアールを助けに来たチーム――の中央にいたシグールだった。
ネクロードに向かって真直ぐ指を指し、これでもかといわんばかりに笑いころげている。
横にいたビクトールが不愉快そうに顔をゆがめた。
「おいシグール、何だってんだ」
「だ、だって!」
ひーひーと目に浮かんだ涙拭いつつ、息を整えたシグールは、自分が笑われている事を察し固まったネクロードを顎でしゃくる。
「今の結婚式の曲だよな」
「あ? ああ、それっぽかったな」
「で、自分で弾いてた」
「……お? おう」
ネクロードの城で思い切りオルガンを弾ける存在なんか他にいないと思うが。
「ねえネクロード」
いきなり声をかけられて、調子が狂ったらしいネクロードは弱冠裏返った声でな、なんですかと返す。
「君、夕方にもなって僕らが来なかったらどうするつもりだったのさ」
「そ、そりゃあもちろん彼女を私の花嫁に」
「結婚式、無音でやるんだ」
「…………」
「だってそうだろ、自分で弾いてたらどーやっても結婚式の段取り踏む時に手を鍵盤から離さなくちゃいけないじゃないか! それとも座ったまま結婚式するつもりだったわけ?」
「…………」
「く……・あっはっはっはっは」
「がっはっはっはっはっはっは」
「あっはっはっはっはっは」
響く残り五人の笑い声。
ネクロードの隣のテンガアールまでもさえ、大笑いしている。
「っ……! い、いい加減に……オルガンをどう弾こうと私の勝手だ!」
屈辱に震える拳を握りこんで叫んだネクロードに、びしっとポーズ付きで再び指差し、シグールは言う。
「しかぁも! ゾンビの証言ではあの四枚の絵のトラップ、自分でも実践してるそうじゃないか!」
「それがどうかしましたか」
周囲の笑いが収まったのでちょっと回復したらしきネクロード。
それに向かってシグールは容赦なき一言を叩き込む。
「自分の城で一々トラップ引っかかってるなんてバカ?」
「っ」
「それとも、ただのトラップマニア?」
「っ!!」
「トラップマニア……確かにあの仕掛けはなぁ」
「だいたい、あの仕掛ってもとからあったものじゃなさそうだよね」
「ってことは、ネクロードが自分で……」
あっはっはっはっはっは。
再び城を揺るがした笑い声の中、ネクロードはくるりと一同に背を向けた。
「くそっ……覚えていろー!!」
「あ」
「あ」
「あ」
「……消えた」
「……虚しい吸血鬼だな」
「全くだぜ星辰剣」
「テンガアール……帰ろうか」
「うん、ヒックス。助けにきてくれてありがとう」
「いや……僕は何もしていないというか……」
「でも、ここまで助けに来てくれただけで十分だよ」
「わーんわーん」
「……シグール、あの遠方で泣いている声がするのは俺の幻聴か」
「よし、ルックにビクトールにクレオ、あのクソ煩いのを倒しに行こう♪」
無戦闘でネクロードが塵となり消え去ったのは言うまでもない。
***
ゲーム中での小話は暗いものばっかりだったので、初めてギャグを。
だから2は、坊ちゃんが来れる対決!ネクロードではオルガン弾いてなかったんですね。