『好きだよ』と何度も言われた。
その度に僕も好きだと返したけれど、ジョウイはありがとう、と笑うだけで。
それがなんだか辛そうで、僕はいつしか答えを返さなくなっていった。
――――僕は何を間違えたんだろう。
<好きの違い>
今日はいい天気だったから、少し外に出たくなった。
ハイ=ヨーにお弁当を作ってもらって外に積まれている木材の上に座って食べる。
ちょうど木陰になっていて、セノにとってはお気に入りの場所のひとつだ。
こうやって食べていると、キャロにいた頃もよく外でお弁当を食べた事を思い出す。
ナナミの料理に苦笑いしながら二人して苦労しながら食べたっけ。
そんな事を考えていたらなんだか食べる気がなくなってしまって、食べかけのサンドイッチを箱に戻した。
ナナミは今ヒルダさんの所に遊びに行っている。
一人でのご飯は味気ない。
「よう、一人か」
「フリックさん」
美味そうだな、とサンドイッチが入っている箱を見て言うフリックに、セノは食べますかと箱を持ち上げる。
まだ半分以上入っているから残すのはもったいないと思っていたのだ。
フリックは何も言わずに一切れ取って口に入れ、美味いなと笑う。
そのまま隣に座って食べ始めたフリックに、セノは話しかけた。
「さっきまでニナがフリックさん探してましたよ」
「今撒いてきたところだ……」
毎日ご苦労なこった、と疲れたように溜息を吐くフリックに笑いを零す。
二人の追っかけっこは、今はもう日常の風景に組み込まれていて、城内でも普通に受け入れられている。
むしろフリックも見る度に『今日はニナはいないのか』と声をかける者すらいる始末だ(主に熊や放蕩息子など)。
「フリックさんはなんでニナから逃げるんですか?」
「なんでって……あれだけ追いかけられたら逃げるだろ」
「嫌いなんですか?」
「なんでそうなる……」
別に嫌っているわけじゃないが、とサンドイッチを咀嚼しながらフリックは言葉を捜す。
「嫌いじゃないが、そういう好きじゃないんだよ」
「好きに種類があるの?」
「違うだろ」
家族に対するものと、恋人に対するものと、友人に対するものと、全て『好き』ではあるけれど。
「僕はフリックさんもルックもナナミも、皆好きだよ?」
「そういうのじゃないんだよ」
お前にもその内分かるよ、とフリックはセノの頭を軽く叩く。
だってあの時の僕には本当に分かってなかったんだ。
フリックさんは優しくて頼りになって。
ルックも普段は無愛想だけど優しいところもあるし。
ナナミは家族だもの。
それは『好き』ではないの?
フリックさんがオデッサさんを『好き』だという事と、
僕が皆を『好き』というのは違うの?
「ニナ」
「あ、セノさん」
フリックさん見なかった?
息を切らせながら走ってきたニナに声をかけると、一言目にはそれだった。
フリックは先程サンドイッチを食べ終えて城に戻っていったと教えるべき……かは置いておいて。
「ニナはフリックさんの事が好きなんだよね?」
「ええ、そうよ」
「僕の事も好き?」
「……そりゃ、好きだけど?」
あなたの事を嫌いな人がこの城にいるわけないじゃない。
首を傾げながら言うニナに、セノは足をぶらぶらさせながら続ける。
「ニナがフリックさんが好きなのと、僕を好きなのは違うの?」
「えーっとね……」
困惑顔のセノにニナは目を瞬かせて答えた。
「私はセノさんの力になりたいなって思ってるし、仲間だって思ってる」
「……フリックさんには?」
「フリックさんとはずっと一緒にいたいと思うの。傍にいたいし、私を見ていてほしいし、逆に嫌われるのがとても怖い」
その人の事を考えるだけでどきどきするし、頭がその事で一杯になる事だってよくある事。
「他の人への好きとは違うわ。一人にしか抱かないんだもの」
わかった? とレクチャーを終えて尋ねるニナに、セノは瞬きを繰り返す。
「……じゃあ、傍にいないのを苦しく思ったり、悲しそうな顔を見るのが嫌だったりするのは?」
「それも恋愛としての『好き』ね」
「……そっか」
「気になる人がいるならちゃんと思いを伝えなきゃ駄目よ?」
そう言ったニナに笑みを返して、セノは城の入口を指差した。
「ありがと。フリックさんならさっき中に戻って行ったよ」
本当は口止めされていたんだけど、教えてもらったから、そのお礼。
「どういたしまして、それじゃ、セノさんも頑張ってね!」
フリックさーんと声をあげながら去っていくニナを見送って、セノは浮かべていた笑いをふと消した。
足元に視線を落とし、ぽつりと呟く。
「もう……遅いよね」
だって二度と二人で言葉を交わす日はこない。
***
セノが自覚のするのはとてつもなく遅い。
相方に「セノからの告白」を依頼されましたが、「吐露する思い」でくっついてるに1票なので……どこで自覚してるんだろうと悩みました。
約束の地ですか、EDですか、生死の狭間なんですか。