<吐露する思い>





もしもを考えるのは愚かでも

それだけ君を手放したくない

それが今わかってしまったから


自責の念に潰される





すうすうと寝息をたてるナナミをちらと見て、セノはゆっくりと義姉の頭を撫でる。
ずっと気を張り詰めていたから、きっと一気に緩んだんだろう。
時々寝言をむにゃむにゃと呟いていたけど、今はめっきり静かになった。

「ジョウイ……寝ないの?」

ナナミが「すっごーく久しぶりなんだからみんな一緒に寝るの!」と叫んで敷いた布団の端に腰掛けたままの彼にそう言えば、困ったような顔で笑った。
「セノ……聞きたいことがあって起きてたんだけどね」
「うん、なあに?」
「――セノは、本当にこれで、よかったの?」
囲まれていた仲間。
町々に行くたびに聞いた。「あの英雄様」「あのセノ様」「あの方なら」という言葉を。
彼は皆の希望で未来で、理想だったのに。

どうして彼は、最後にこんな自分の手を取ったのか。

「どうして?」
「……あのまま、軍主として、この国の王として」
「――あのねぇ、ジョウイ」

呆れたような顔で笑ったのが、月明かりのせいではっきりと見えた。
ナナミの横から立ち上がって、ジョウイの隣に腰をおろすと足を前に投げ出す。
こてんと頭をジョウイの肩に押し当てて、セノは答えた。

「僕はね、ジョウイが側にいてほしかったんだよ。ジョウイを選んだんだよ。後悔なんてしてないし、しないよ」
「……けど」
「ジョウイがほしかったの」
「――セノ」


「――……どうしてそんなこと言うの」

僅かに伝わってくる振動に、彼が震えている事がわかる。


「僕は、ジョウイとまた会えて、すごく嬉しかったのに」
「……僕も、嬉しかったよ」
「それの、何がいけないの? ぼ、くは、それだけ、で、いい、んだか、ら」
「セノ」
泣かないで、と言おうとして、止める。
泣かせているのは、どう見ても自分だ。
「ほっ、ほかの、人のことま、で、考えてる、ことなん、か、で、できなっ、い、くら、い」
「……セノ」
「ず、ずっと、待っ、て、我慢し、て。なの、なのに、なんでみんな、僕、ばっか、り」
「…………」

「ぼ、ぼくは、軍主なん、か、むいて、なかったん、だっ」

別れた時のシュウの横顔は、まるで泣き出しそうだった。
自分の決断がどれほど大きかったか、どれだけ影響を与えてしまったか、そこではっきりと分かった。
しっかりと一つずつ思い出せば分かる――シュウはセノを、「軍主」ではなくセノ本人を、大切にしてくれていたのだという事を。
本当に危ない事はやらせなかった、危険の中に送り込む時はいつも策を練って、不安な時は支えてくれて、迷っていたら背を押してくれた。
やってはいけない事をすれば叱ってくれて。

分かっている。彼はとてもとても気遣ってくれていた。


――私は貴方のためなら、どんな汚名でも被りましょう


それは真実、セノを想っているからこそ出る言葉だと思う。
だけど、だから、だからこそ。
彼を筆頭に皆がかける期待が重かった。


「や、やだった、けど、でも、ジョウイ、だって、ジョウイが」
「――……ごめん、セノ」
「じょ、ジョウイが、あん、あんなことに、なっちゃう、から」
「……そうだね」
「で、っで、でも、ぼくは、だから、困った、それで、でも、だって」
「――……セノ」

意味をなさない言葉の羅列を嗚咽混じりに呟きだしたセノに、ジョウイは体の向きを変えて正面に座ると、そっと背中を撫でる。
ひとしきり治まった頃に、ようやく手が離れた。

「……ジョウイ」
「なんだい」
「僕は、間違っていても、いいと思って」
「……うん」
「もしこれが、間違いでも、今ジョウイが僕の隣にいることの方が、大事だと思った」
「……うん」


「間違いだったら、ごめんね」


ぎゅっと服を握り締めてきたセノの肩を、ジョウイは抱き寄せる。




「――その時は僕も、同罪だ」







あなたと共に在れるなら

たとえ死後は永遠に地獄の中でも

私はけっして後悔しない


私はちっとも怖くない

 

 

 

 



***
2をやってジョウ主。
プレイ前と少し印象が変わりました。
2主はより儚い感じで、ジョウイへの感情のみ。
ジョウイはもうちょっと暗い感じで。
……共演に影響なんざちーともありませんがね(苦笑