<第一印象>
何がどうなったか詳しくは分からないが、二人とも一命を取り止めどうやら不老になったらしいと判明し、その報告がてら城に行ってシュウから小言と嫌味を散々聞かされた後。
お世話になった人がいるとセノが口にした名前はトランの英雄のものだった。
トランの使者として戦争に参加していると報告を受けてはいたが実際に戦場で見かけた事はなく、けれどその名と功績は書物で知ってはいた。
きちんとお礼をしたいというセノの言葉から彼の家に行く事になり、その道すがら「シグール・マクドール」の事を話すセノが楽しそうで嬉しそうで、少しざわついた。
グレッグミンスターの中でも一際目を引く、一目で貴族のものと判別できる家がマクドール家だという。
元がこの国の大貴族の嫡男だという話だったが、なるほど確かに大貴族。
素性隠しの被っていたフードの口元を少し下げてジョウイは屋敷を見上げ、感嘆の息を漏らした。
通された部屋では赤い服を纏って頭にバンダナを巻いた、自分達と同じ年くらいの少年が二人を待ち構えるような様子でソファに座っていた。
他のソファにはこれまた金髪の少年が座って、どこか呆れた目でこちらを見ている。
「初めまして、ジョウイ……ブライト、でいいのかな?」
にこりとバンダナの少年が皮肉気味に言う。
ジョウイは動じる事無くフードを取り、軽く頭を下げた。
自分の素性がばれているのは予想できた事だったし、これくらいの嫌味はシュウからすでに散々言われていたので今更どうという事はない。
「ジョウイだけで結構です、一応死んだ身ですから。……お目にかかれて光栄です、シグール=マクドール殿」
「ああ、僕を知ってるんだ?」
「ご高名はかねがね」
そう、とシグールは目を細めた。
一瞬ひやりとしたものが背筋を走ったが、すぐにシグールが浮かべた柔らかな笑みに、気のせいかと思う。
シグールは立ち上がってセノの頭を軽く撫で、良かったねと言った。
「……はい」
嬉しそうに頷くセノに頷き返して、シグールはジョウイに左手を差し出す。
「君も、生きていて何より」
「……初対面、ですが」
しかも敵の頭だったんですが。
「君の事はセノから色々聞いててね。君たちが幼馴染っていうのも知ってるよ」
「そう……ですか」
戦争の間も自分の事を忘れずにいてくれたのだと不謹慎ながらも少し嬉しく思いつつ、ジョウイは差し出された手を握った。
瞬間、物凄い力で握り返された。
そのまま手を引っ張られ、ぐいと肩に腕をかけられる。
二人の顔が至近距離で、それこそ触れそうなくらいなまでに近づく。
突然の事に目を白黒させているジョウイの耳元で、先ほどとは別人のような声音で囁く。
「いい度胸だね」
その温度差にジョウイはぞっとした。
「セノでなかったら君死んでるよ?僕だったら即行で殺してる」
「……セノは、貴方じゃない」
睨みつけるようにジョウイが答えると、それはそうだと冷ややかに笑った。
「ま、長い付き合いになるだろうからお互い上手くやっていこうじゃない」
セノは僕に懐いてるからね、と言ってするりと腕を解く。
「本当に大事がなくてよかった」
これで君で色々と遊べるから。
にこりと人当たりのいい笑みを浮かべてジョウイの肩を叩き、これからもよろしくとのたまう。
シグールがジョウイを引き寄せて何やら話しているのを見ていなかったのか、セノはもう仲良くなったのかと嬉しそうだ。
ははは、と乾いた笑いを浮かべながらジョウイもこちらこそと返す。
叩かれた肩が痛かった。
その数日後。
所詮本は本でしかないのだと、心から悟ったジョウイだった。
***
本当に長い付き合いになりました。